診察室を出てからも涙が止まらずしゃくりあげる妻を、廊下を通り過ぎる人が無遠慮に僕たちを見ていく。
中には気の毒そうな顔をしている人もいる。
僕の柄ではないけど慰めるつもりで、
「今すぐ死ぬって言われたわけじゃないし、今のところ痛くも痒くもないんだよ。血液検査の結果が悪くってその原因が分かったところなんだから、今からメソメソするんじゃないよ。」
と諭しておいた。
どうやら教授先生からはっきりと、
「残念ながらもう治らない」
と言われたことがよほどショックだったらしい。
それと僕が妻にお願いしたのは、
「この話は両親にはまだしないでほしい。
さっき言ったように今は症状がないんだから、年老いた両親に今から無用の心配をかけることはないからね。
言わないといけない時期がくれば僕から話すから」
と、これだけはお願いをしておいた。
というわけで、阪神淡路大震災から22年目の2017.1.17に僕の乳がんはステージⅣがはっきりと確定した。
縦隔リンパ節への再発・遠隔転移である。
2017.1.19には気管支鏡検査をしてくれた呼吸器内科の先生から検査結果が発表される予定だが、可能であれば病理検査の結果を撮影してこようと思っている。
今日の教授先生の診察室でちらっとモニターを見たところによると、初発とは違ってHer2は+2→+1、KI-67は5%だった。
これじゃケモにハーセプチンは使えない。
相変わらず男前の癌だけど、肺やら遠く離れた場所であちこち浮気でもするように転移するのは全くよくないな。
腫瘍内科医である教授先生も分かっているのだろうけど、多分男の僕にアロマターゼ阻害剤の投与は、効けば儲けもの程度の賭けに近いものだろう。
僕も全く期待していないのだが、怖いのは「無治療」という期間が長いほど加速度的に癌が増殖し、悪化していくのではないかということだ。
気休めでも「薬を飲んでいる」という事実だけでも多少の安心感を得られる。
<フェマーラ(レトロゾール)>
僕は北斗晶さんも小林麻央さんのブログは読んだことはないが、市川海老蔵という役者には興味がある。
てっきり歌舞伎のドキュメンタリー番組かと思って1/9の日テレで放送された「市川海老蔵にござりまする 2017」を録画していたのだが、見てみると内容は歌舞伎というよりも、乳がんになった小林麻央の闘病生活がテーマだった。
小林麻央は自身のブログの中で、
「ごめんね、病気になっちゃった妻で。
~中略~
きっと病気になって、皆が一番に思う言葉かもしれない。」
『ごめんなさい。。。』」
と語っていたらしい。
この日、病院で散々泣きべそをかいて腫れぼったい目をしている妻に、自宅に帰ってから僕は普段やらないことをやった。
妻を抱き寄せ、
「ごめんね、病気になっちゃった旦那で。」
とやると、
「小林麻央をパクるな」
と返って怒られてしまった。
折角優しさを見せて慰めてやろうと思ったのにきっちり録画を見ていたのか。
でも本当に本当に冗談抜きで・・・両親に、義父に、そして妻とその妹たち、また普段からブログで僕を暖かく見守ってくれていた全ての人に・・・・。
「ごめんなさい、再発しちゃって。。。」