手術前に病院からもらった「手術前に準備して頂くもの」という印刷物の中に、「胸帯」という文字があった。
「病院の売店で買うことができます」…うん、胸帯ね。
乳がんの手術をする患者さん向けに配られる印刷物なので、正直、
「男は要らないんじゃないの?」
って思ったが、買って使わなかったら返金してもらえるということなので、入院初日に妻と買いに行くことにした。
店員さんに大人用のおむつなど買うものを告げると、慣れた様子で次々と商品を出してくる。
最後に「あと胸帯なんですが…」と恐る恐る聞いてみると、S・M・Lとサイズが3つあるという。
店員さんは僕の体格をちらっと見て、サイズはすぐにLに決まった。
胸帯など買ったものは、手術直前に看護師に預けた。
さて術後。
最近はそうでもないが、当時の僕は無くなった胸を直視することができないでいた。
乙女か!と言われそうだが、男でも胸が無くなるのは悲しいものだ。
なので術後に、主治医や看護師が手術創を確認する時は思いっきり顔を背けていたので、自分の胸周りに施された処置は全く見ていない。
でもあの時買った胸帯は、しっかりと僕の胸に強力なマジックテープで固定されていたことは分かった。
僕自身も入院するまで知らなかったのだが、僕は皮膚がとても弱かった。
腕などはそうでもないのだが、特に体の胸から首にかけて弱く、医療用のテープを10分ほど貼っただけで赤くかぶれてしまう。
胸帯を巻いていた時に一番悩まされたのは、このかぶれによる胸周りの痒みだった。
胸帯を外せば、主治医も回診の先生も看護師も一様に、
「わー、これはひどいね。帯状疱疹みたいになってる。」
という反応だったので、相当なものだったのだろう。
処方してもらったリンデロンで多少マシにはなったが、胸帯の間から指を入れてゴシゴシと掻く時がなんともいえない至福のひとときだった。
この胸帯も看護師によっては、「少し緩めに巻いとくね」という方もいれば、「しっかり巻いておいたほうがいいから」と、息が止まるほど締め付ける看護師もいた。
僕的にはかぶれや痒みのことはあるものの、車のシートベルトのように手術創が固定されたほうが楽に感じた。
僕が使っていた胸帯の画像があれば紹介したかったのだが、妻に聞くとすでにリサイクル業者に売ってしまったようで手元になかった。
僕が使っていたのは、確か晒しのようなものだったと思う。
似たようなものはないかと画像を検索したところ、男性用の物はほとんどなく、圧倒的に女性の「乳がん術後用のブラジャー」がヒットする。
てことは、僕は本来女性が着けるブラジャーのようなものをしていたってこと?
なんだか急に恥ずかしくなってきた。
気になってさらに検索を進めたところ、胸帯は開胸手術後でも使われることがあるようで、女性用に限ったものではなく、男女両用タイプがあることがわかった。
また僕が使っていたのは、「トラコバンド」という商品によく似ていることがわかった。
〈トラコバンド〉