術前検査では腋窩リンパ節や他臓器への転移は確認されなかったと、主治医からお話があった。
他臓器への転移があれぱ手術はできなかっただろうし、腋窩リンパ節への転移があれば手術前日にSNリンパ節の同定などせず、即郭清すると言う説明があっただろう。
リンパ節への転移は怖かった。
手術前から、
「どうかリンパ節への転移だけは堪忍してください」
と、天を仰いで祈っていた。
術前の診断では、
○ 腫瘍の大きさは2センチ程度(・・・けっして小さくはないが。)
○ 乳頭腺管がん(予後のいいタイプ。但し、術後の病理では悪性度の高い硬がんとなってしまったが。)
○ 悪性度はグレード1
そして男性乳がんはホルモン受容体陽性が多いということで、リンパ節への転移さえなければ命は助かると、当時は真剣に思っていた。
またTMN分類を考えると、ひょっとしたら抗がん剤さえ逃れられるのでは?と甘い期待までしていたのだ。
しかし・・・。
手術が終わり、まだ麻酔から覚めきっていない朦朧とした状態で主治医に、
「リンパはどうでしたか?」
と聞くと、先生は軽い調子で、
「センチネル、6つとったけど全部だめだったよ。」
と言いながらICUを去っていった。
僕は広いICUの部屋の中で一人、絶望の淵に突き落とされ深い悲しみに沈んでいった。
病理検査の結果が出るまでの間、SNリンパ節が陽性だった症例の情報を求めた。
○ SNリンパ節への転移が6個だったと言うが、SNは見張り番的な存在なのだからリンパ節転移の数に加えなくていいのでは?
(いやいや、SNリンパ節も立派なリンパ節でした。)
○ SNリンパ節で転移が止まり、腋窩リンパ節には転移していない症例はあるの?
○ (がんの顔つきがよかった場合の)リンパ節に転移した乳がん患者の生存率は?
しかし僕を安心させてくれるような材料はあまりなく、毎日泣きながらただ不安と悲しみに耐えるしかなかった。
正式な病理検査の結果を一刻も早く聞きたかったのだが、約3週間の入院中には発表されず、退院後の外来診察室で聞くことになった。
そしていよいよ発表のとき・・・。
「SNに6個、LV1に8個、LV2に6個、全部で20個。取ったリンパ節全てに転移していました。
珍しいですね。たいちさんの場合、再発するリスクは高リスクの中でも高いです。
これからきつい抗がん剤をやっていただきますよ。」
そばで一緒に聞いていた妻がしくしくと泣き出した。
自宅に帰ってからネットで腋窩リンパ節に20個転移しているような方のブログや症例を探したが、そういったケースはなかなか見つけることはできなかった。(十数個の転移という方はお見かけしたが。)
数々の患者を見てきた医者にして、「珍しい」と言わせるくらいなのだから相当なものなのだろう。
そしてリンパ節転移の数が示す生存率の低さ‥。
ボクは密かに死を覚悟した。