「たいちさん、今日って時間ありますか?」
またいやな予感がしたが、
「はい、まあ・・・。」
と、すでに涙目になっている僕。
「胸に局所麻酔を打ってから5ミリほど切開し、特殊な注射器でバチンと組織を取りますね。」
(え?え?それって・・プチ手術やん?)と思ったが、僕は人生で2度目の男を見せた。
歯医者さんで歯茎への麻酔注射の経験があった僕は、
(麻酔を打ってくれるんだったら、最初の注射針のちくっとした痛みだけであとは大したことはないだろう)
と、自分に言い聞かせながら、 前回と同じ処置室で上半身裸になってベッドに横たわる。

 「ちょっとチクっとしますよー」
という先生の声とともに、局所麻酔の注射が左胸に何ヶ所か打たれる。
その後は顔をそむけていたので何をされたのかよく分からないが、組織を取る際に「バチン」という特殊な注射器から発する大きな音が3回聞こえた。
この大きな音が恐怖だったが、「バチン」という振動がかすかに胸に伝わっただけで、これまた心配していたような痛みは感じなかった。 
もちろん体は終始、エジプトのミイラにでもなったかのように硬直しっぱなしだった。
最後に医療用ステープルで切開した箇所を1か所留められ、この針生検の結果は一週間後の診察室でということになった。
ちなみに・・・医療用ステープルは、留める時は麻酔が効いていたため痛くはなかったが、抜く時は涙がこぼれるほど痛かった。

そして一週間後、2014年5月7日の外来診察室。
先生は診察室に入ってきた僕を見るなり、
「たいちさん、悪いものが出ちゃいましたよ。」
と淡々とした口調で先日の検査結果が癌であったことを告げられた。
告知ってもう少しドラマチックなものかと思っていたが、先生にとっては告知なんてもう慣れっこなのだろう。
こうして僕は癌患者の宣告を受け、目には見えないが確実に命のタイマーが動き始めた。

乳首が痛いことを内科医に告げた妻に、僕は(余計なことを言いやがって・・・)と思ったが、先生がすぐに乳腺外来を受けられるように手配してくれたことは、とても幸運だったと感じている。
妻が言わなかったら僕は確実にあのまま放置していただろう。
術後の病理結果では、僕の癌は末期一歩手前のステージ3a。
もう少し発見が遅かったらさらに腫瘍が成長し、遠隔転移をして手術の適用外になっていたかもしれないのだ。

最後に余談になるが、手術後、僕がまだ入院中だった時に乳腺外来の受診を勧めてくれた内科の先生と、偶然廊下でばったりとお会いした。
半分僕の顔を忘れていたようだったが、僕が乳がんの手術をしたことを話すと思い出してくれて、
「えっ!ホントに乳がんだったの?」
ととてもびっくりされていた。

これはCNBをした日の夜の画像です。

 
手術でもうなくなってしまいましたが、陥没乳首の下にがんのしこりがあります。ステープルの上から防水用のテープを貼られただけなので、血が溜まっています。
もちろんこの時はまだがんとは思ってなかったのですが、よくこんな写真を撮っていたものです。
お見苦しいものを見せちゃいました・・。