僕は物事に対する執着が薄いほうだ。
「何があっても絶対にこの仕事を仕上げるんだ!」
「どんなことをしてでもこれを手に入れてやる!」
みたいな熱い人の気持ちがよく分からない。

ただこんな性格になったのは先天性ではないように思う。
明確に覚えている二つの出来事がある。

一つは僕が大変お世話になっている電通マンのことだ。
ある日、二人でクライアントの元へ打ち合わせに行った時に、クライアントから、
「この仕事を必ず週明けまでに仕上げるように・・・」
という無茶なリクエストを受けた。
帰りがけに僕はその電通マンに、
「週明けまでに仕上げるなんて、休みを返上しても徹夜しても絶対に無理ですよ」
と愚痴をを言ったら、
「時間が限られているんだからできるところまでやったらいいじゃん」
とあっさり言う。
まだ若かった僕は、客から言われたことは完璧に仕上げなければいけないと思い込んでいたが、不完全なものを完璧にして出すという考え方に初めて接した。
結局その仕事に関しては、枝葉を捨てて幹だけ書いて出したらそれで通ってしまった。
もちろんそれで済まない仕事もあるのだけどね。

もう一つは漫画の影響だ。
少し昔の作品になるが、1993年に連載された夢野一子さん作画の「この女(ひと)に賭けろ」という漫画があった。

 

内容は銀行に勤めるマイペースな女性総合職が主人公で、半沢直樹の先駆けのような作品だった。
ある時、緊急的なイベントが発生して廊下をばたばたと走っていた主人公は、

「急ぐ時ほどゆっくり歩け」

と自分に言い聞かせ、落ち着きを取り戻したというシーンがあった。
僕にとってはこのセリフが新鮮で、以降金科玉条のようにしている。

余人にはつまらないエピソードかもしれない。
でも僕にとっては今の僕の性格を形成した重大なイベントなのだが、二つに共通しているのは「マイペース」というキーワードだ。
ネットからの引用になるが、「マイペース」を調べたところ、まさに僕の性格を言い得ていると思ったので紹介する。

○ いつも冷静で落ち着いた行動ができる
○ 感情をあらわにすることはほとんどない
○ どんな時も落ち着いた口調で話をする
○ どのような相手に対しても同じように接する
○ 確固たる自信があり、堂々としている
○ 決断をするときには、納得がいくまで考えぬく
○ 常に自分なりの考えやポリシーを大事にする
○ 世話を焼いて、人の干渉をすることはない
○ 時間軸やタイミングが人とずれることも
○ 興味をいだく対象がはっきりしている

僕の性格は全くこのとおりだ・・・と言うつもりはないが、僕の美学の中ではこういう性格の持ち主は尊敬に値する。

前述した電通マンがこんなタイプだった。

さて、こんなマイペースな僕がステージⅣになって考えていることといえば。。。
冒頭に書いたように僕は物事に対する執着が薄い。
「ステージⅣ=治らない=標準治療で弾薬尽きたら終わりだね」と考えている。
しんどいケモだってできれば拒否したいし、いよいよって時には無理やり命を延ばすより適当なところで意識を飛ばしてほしいと願っている。
時折「癌に効果のある薬が出た」なんて報道を見るが、例え治験の機会があったとしても未知の副作用で苦しんだり、かえって命を縮める可能性があるのならおいそれといい返事なんてできない。
ブログで何度となく言っているが、それがステージⅣの癌というものなんだろう。

端的に言えば、3年前に僕の腋窩リンパ節に高度な転移があったことが判明した時から僕はいずれ再発すると思っていたし、その時点ですでに長生きを諦めた。

その反面・・・。
僕の身に起こるとは考えていないが、いわゆる「人体の奇跡」があることまでは否定をしない。
先日、聖路加病院の日野原重明先生がお亡くなりになったが、その追悼番組を見ていて驚いた。
先生が担当する末期がんの患者さんに聴診器を当て、
「まだまだ大丈夫、あなたは生きられるよ。だからこれは外しておこうね。」
と酸素吸入器を外したのだ。
先生は、SPO2は悪くないのにこの酸素吸入器が患者を弱気にさせている…と判断したようだ。
患者はげっそりとやせ細って言葉だって満足に喋れず、酸素吸入器がまるで命をつなぐ細い糸であるかのようにしがみついていたのだが、次に会ったときにはものすごく元気になっていた。
笑顔を見せ、涙ながらに「先生のおかげです、ありがとうございました」と言うのを聞いて、気持ちの持ちようでここまで劇的に回復するのかと、改めて人間の持つ精神力や生命力に驚嘆した。

「絶対に治してやる」
その強い決意がないと何も始まらない。
そう決意したところで何も損はない。
精神力は血液検査のように数値で測れないが、もし仮に数値で表すことができたら
100の精神力と10,000の精神力では絶対10,000の精神力のほうがいい影響を与えるに違いない。
医者が驚くほど回復した人なんて枚挙に暇がない。

僕はこんな性格なので安きほう(頑張らないほう)に流れてしまうが、例え短くても充実した人生でありたいということについては努力を怠っていないつもりだ。
マイペースと自暴自棄になることとは全く違うからね。