2015.12.7
18回目、最後のハーセプチン投与となる。
今日以降は、再発予防の術後補助療法としてはホルモン療法だけになる。

8時49分に病院に到着し、いつものようにケモ室での採血した後、がん化学療法認定看護師による問診があった。
それから放射線科に向かい、胸のCTを撮影する。
僕の単身赴任に伴って病院を転院することになるので、一通りの検査を行って主治医に紹介状を書いてもらうことになっている。
CTは連続して違う部位を撮影できないらしく、面倒だが明日は上腹部のCTを撮りに再び病院に訪れる予定だ。

採血からおよそ1時間後、中待合で主治医に呼ばれるのをじっと待つ。
前回診察時の、術前に胸腺が腫れていたのが術後に消失している件について、今回の胸のCT検査の結果とともに主治医からお話がある予定だ。
僕の鳩尾あたりから何とも言えない不快な感覚がにじみ出てくる。
なんだか嫌な予感がする。

名前を呼ばれて診察室に入ると、主治医が重々しく口を開いた。
「たいちさん。あれからよく画像を見させていただいたのですが‥」
以下、要約すると…。

○ 術前CT画像では、主治医、読影の先生ともに胸腺腫らしき腫瘍が胸にあるのを認めたが、通常胸腺腫は予後が良好であるため、乳がんの治療を優先した。(はっきりさせるには、PET-CTによる検査が必要)
○ しかし術後、ケモ施行中のCT画像ではあるはずの腫瘍が消失している。
ということは、胸腺腫ではなく乳がんの転移で、縦隔リンパ節への転移である可能性が高い。
○ 縦隔リンパ節は腋窩リンパ節のような領域リンパ節ではないため、遠隔転移の扱いになる。
○ 手術前にこれが判明していたなら手術の適用は見送り、抗がん剤治療のみになっていた可能性がある。
とのお話があった。

さらに、今までは再発予防のための術後補助療法を行ってきたが、術前から縦隔リンパ節に転移があったとするならば、これからの治療方針は「転移性乳がん」とする必要があるとのことだった。 

つまり僕は最後のハーセプチンの日に、ステージⅣの宣告を受けたわけだ。
腋窩リンパ節にもともと高度な転移があった僕は、いつ余命宣告を受けても動じない覚悟ができていたつもりだったが、この話を聞いた瞬間、不覚にも頭が真っ白になって恥ずかしいほどにうろたえてしまった。

(どうしよう…、どうしたらいいんだろう)
主治医付きのナースが気の毒そうに僕を見る視線が心に突き刺さり、僕は何も考えることができなくなった。
とりあえず、来週の診察までに落ち着いて考えをまとめたいと主治医に伝え、ポートへの穿刺をしてもらった。

ケモ室ではがん化学療法認定看護師が主治医が作成した電子カルテを確認したのだろう。
僕が伝えるまでもなく、ステージⅣになったことを知っていた。
看護師さんが悲痛な顔をして僕の肩をポンポンと軽く叩くと、ほろりと涙がこぼれそうになり、慌てて天井をにらんだ。

その日は一日中呆然として食欲もなかったが、仕事が忙しかったのでポケーっとするわけにもいかず、それが良かったのか昼間は気を紛らわすことができた。

自宅に帰ってから、ネットで縦隔リンパ節の転移について調べてみる。
「縦隔リンパ節」というキーワードでは肺がんがよくヒットしたが、乳がんの転移では予後はあまりよくないらしい。

でも落ち着いて考えてみれば、僕はたくさんのグッドラックに恵まれていたように思う。
○ Ⅳ期の宣告がこの時期になったことで、現代医療の恩恵を最大限に受けることができた。(手術、ケモ、放射線、ホルモン療法)
○ ケモがよく効いて縦隔リンパ節の腫瘍が消失し、マーカー、画像ともに現在は寛解状態である。

先生からお話を聞いた時は動揺してしまったが、再発リスクが高いということは以前からお聞きしていたことで、今後厳重な経過観察することに変わりはない。
Ⅳ期とは言え再発が確定したわけではないので、直ちに何かをしなければいけないということはないはず。

願わくばわずかな時間かもしれないが、治療のない日を…、健康だった頃を懐かしみながら少しでも長く過ごしたい。