古くから僕のブログにお付き合いいただいている読者は、僕がどんな性格なのか薄々お気づきになられている方もいらっしゃるかもしれない。
僕の「癌」という病への向き合い方は、ただ「長生きをあきらめた」ということに尽きる。
人間性がネガティブなのだ・・・と言えるかもしれないが、これには子供がいないとか住宅ローンがないとか環境的な要因もあるかもしれない。
それに僕の仕事というのは「常に最悪の事態を想定してその対策を考えること」を生業としている。
だから進行性の癌に罹患した以上、「死」という最悪の事態を想定することは僕にとっては当たり前の思考なのである。
以前の記事に書いたかも知れないが、降水確率が90%の時に傘を持って出かけるか、それとも降らないだろうという根拠のない10%に懸けるのかということだ。
とは言え、僕の妻はこのように考えることを大いに嫌う。
なので僕からは暗くなるような話はなるべく言い出さないようにしているが、病気をする前には全く行かなかった海外旅行やミュージカルなど積極的に行くようになり、僕が思い出作りをしているということには気が付いているに違いない。
先日、心理学者のデビッド・D・バーンズの「フィーリング Good ハンドブック」という本を読んだ。
いわゆる「認知療法」を分かり易く解説した本で、僕のようなネガティブ思考を持ち、デパスを愛用するような人間にとっては目から鱗が落ちるようだったので少し紹介したい。
例えば、「癌」という病気を人間は客観的にありのままを観ているのではない。
人間は成長するにつれて自己スキーマ(信念や経験等)が作られ、それに基づいて歪んだ思考や考え方が自然に浮かぶ自動思考が起こっている。
だからこそ「癌」に対して誤解や思い込み、拡大解釈などが含まれた自分に都合の悪い認知をしてしまい、それが結果的に嫌な気分(怒り、悲しみ、混乱、抑うつなど)を生じさせている。
「では、自分の都合の悪い認知(これを「認知の歪み」と言う)を断ち切れば嫌な想いをしなくて済むのでは?」と言うのが認知療法である。
認知療法はうつ病の治療法として、薬物療法とは別のアプローチとして利用されている。
それでは認知の歪み(考え方の癖)にはどんなものがあり、うつ病へ導かれるのかというと・・・。
1 一般化のしすぎ
ちょっと良くない出来事があれば、「いつも失敗する」「うまくいったことなんか一度もない」「職場中から嫌われている」という思い込みを、「一般化のしすぎ」と言う。
こういう癖があると、嫌なことがずっと続いているような気がして何事も後ろ向きになり、うつ病になりやすくなる。
2 マイナス化思考
なんでもない出来事を全部悪い方向に捉えて解釈する癖のこと。
例えば仕事でいい成績を残せても「こんなのは偶然だ」と言い、成績が悪いと「やっぱり自分はだめだ」と言って自分を低く評価することを言う。
3 自己中心的思考
何かネガティブなことがあれば、自分に関係ないことでも自分のせいにする癖のこと。
例えば社員同士が仕事とは関係のないことが原因で仲違いしているのを「自分のせいだ」と考えてしまうようなことを言う。
4 オール オア ナッシング
たいていの事は「白か黒か」といったような二者択一では決められないはずだが、日常生活でささいな失敗を「ああ、もう全部だめだぁー」とか、少しできただけで「オレって天才!」と思うことを言う。
5 心のフィルター
たいていの人は褒めてくれているのに、たった一人の反対意見にとらわれてしまって悩んだり苦しんだりすることを言う。
一つのネガティブな要素にこだわってくよくよし、他のことは全てフィルターにかけて無視してしまうような癖だ。
6 すべき思考
文字どおり、「~すべき」とか「~しなくてはならない」という考え方で、こういう人は「それが常識でしょ?」「普通ならこうでしょ?」といった表現をよく使う。
自分の考えや価値観を他人に押し付けると対立が生まれやすくなる。
7 拡大解釈と過小評価
自分の短所や失敗を必要以上に大きくとらえること。
逆に、
「頑張って大学に入ったのに、こんなことは誰にだってできることで大したことでない・・・」と、自分の長所や成果を低くとらえるのはこれにあたる。
8 結論の飛躍
根拠もないのに悲観的な結論を出すことで、これには二つある。
○ 先読みの誤り
今の状態が確実に悪化すると決めつけるような癖で、「もう病気は治らないんだ」などと思うようなことを言う。
○ 心の読みすぎ
本当かどうか確認せずに、誰かが自分のことを悪く言っていると考えて勝手に結論付けること。
先輩に報告したら思っていたような反応がなくて、「先輩に嫌われているんだ」と思い込むようなことを言う。
9 感情的決めつけ
「ダメなものはダメ、嫌なものは嫌」と言ったように、自分の感情を根拠にして、出来事や事実を決めつけてしまうことを言う。
怒りや不安が募っているような時は、こういう考え方に陥りやすい。
10 レッテル張り
「一般化のしすぎ」や「心のフィルター」がさらに極端になり、ちょっとした失敗でも「ダメ人間」「バカ」などといったネガティブなレッテルを自分に張り、自分で自分を追い込むことを言う。
こうなるとますます辛くなって冷静な判断ができなくなり、思考が停止する場合がある。
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10個の認知の歪みを紹介したが、いかがだっただろうか?
こうしてみると僕なんて歪みだらけで、「癌なので長生きをあきらめた」なんて「8 結論の飛躍」のとおりだと苦笑いするしかなかった。
こうした認知の歪みが自分を「嫌な気分」にし、さらに進行するとうつ状態になったりするらしいので、自分の心理状態を把握するという意味でこういう著作に出会えたのはよかったと思う。
あなたは何個あてはまりましたか?