ところがっ・・・!
名前を呼ばれて更衣用の小部屋で看護師から検査の説明を受けるが、ふっと脱衣かごの中をのぞくとそこには注射器のセットが銀のトレイに置いてあった。
一瞬「え・・・」と思ったが、これが自分のものとは信じられず、きっと次の人のものなんだろうと頭を振って不安になる気持ちを打ち消す。
しかし看護師は無情にも、
「この後、胃の運動を抑制するための注射を打ちます。筋肉注射なのでちょっと痛いけど我慢してくださいね。」
と恐ろしいことをニコニコしながら僕に告げる。
出たよ!僕が一番恐れている筋肉注射をこのタイミングで!?
・・・ってかそんなの聞いてないよー。
心の準備が全くできていないのに、
「はい、じゃ検査衣のそでを肩まで上げてくださいね。アルコールで拭いても大丈夫ですか?ちょっと検査衣のここを左手で押さえておいてください」
と、着々と注射の準備を進める。
(やだよー。なんで僕が筋注の協力しなければいけないんだよ・・・)
と心の中で愚痴る。
(えっと、えっと筋肉注射は・・・。)と、昔グーグルで調べたことを懸命に思い出す。
・ 皮下注射は30度の角度で深さは約1㎝、筋肉注射は約90度で2㎝の深さでぐさっと穿刺。
・ 薬液は筋肉には馴染みにくいから強い痛みを感じる。
えーと、えーと・・・。
と思う間もなく「ちくっ」と来た。
「ぐはあっ」
と、次に来る薬液の痛みに備える・・・が、
「はい、終わりました。」
(あれあれ・・・)
と、穿刺は1秒ほどで終わってしまった。
しかし、痛みは注射針を抜いてから2秒後に来た。
「痛ってぇーー」と顔をしかめるほどの痛みだったが、それは初(?)の筋肉注射を終えた清々しい痛みでもあった。
こうやって人間ってどんどん強くなっていくんだな。
あとで調べてみると、この注射は「ブスコパン」という鎮痙剤だった。
副作用は僕の場合、1時間ほど眼の焦点が合わなくなった。
老眼のように近くにあるものが見えなくなってしまって、(あれあれどうしたことだろう)と思っていたら、ブスコパンには眼の調節機能障害という副作用があるらしい。
これまでこういった薬の副作用はあまり感じたことがなかっただけに、少し驚いてしまった。
さて、筋注の痛みが収まらないまま、更衣室の小部屋を出ていよいよ撮影に入る。
最初にシュワシュワとした顆粒の発泡剤を口に含み、ポカリのような液体で胃へ流しこむ。
盛大にゲップをしたくなるが、胃を膨らませる為のものなのでここでゲップをしてはいけない。
そして次にいよいよバリウムだ。
白く濁った液体だが、前評判で騒がれているほど不味くはなかった。
冷やしてくれていたらよりおいしく飲めただろう。
病気をする前はゴールドジムで体を鍛えていて、よくプロテインを飲んだものだがそんな味を思い出した。
あとは技師さんがマイクで指示されるとおり、検査台の上で右を向いたり左を向いたりごろんごろんしたりすると思うと、検査台がウィーンと自動的に下がって頭が下になったり、なんだか宇宙飛行士の訓練のように思えた。(そんなに激しくはないけどね。)
ただこの検査はある程度体力がないとできないんじゃないかと思ってしまった。
検査が終わると健診センターへ戻り、バリウムを排出するための下剤を2錠渡されて、それをたっぷりの水で流し込むと全ての検査が終わった。
結果は後日郵送されてくる。
帰宅してから胃透視のことについて調べてみると、
・ ゲップをしてはいけない発泡剤の苦しさ
・ 筋肉注射の痛み
・ バリウムの不味さ
の3点からしんどい検査という意見が目立った。
予習していたらひょっとしたら必要以上に構えてたかもしれないが、気管支鏡検査に比べれば僕にとってはなんてことのない検査だった。
数々の苦しい検査や痛い注射をこなしてきた僕は、そろそろヘタレの名を返上してもいい時期が来たのかもしれない
ただこの検査は被ばく量が半端ないらしい。
(浜松医療センター 診療放射線科の資料(2016.3改訂)から引用)
※ 数値は最大部位の被ばく量を示す。
レントゲン(胸部) ・・・0.1mGy
レントゲン(腹部) ・・・0.4mGy
CT (胸部) ・・・14.3mGy
CT (上腹部) ・・・22.2mGy
胃透視・・・22.4mGy
FDG-PET・・・48.0 mGy
骨シンチ ・・・50.2mGy
胃透視のようなX線TVは、検査内容、透視時間、撮影枚数によって線量は大きく異なるらしい。
僕のような癌患者がCTや核医学検査を受けるのは仕方がないと思うが、健康な人が1年に1回とは言え健診のために高い線量の検査を受けるのはいかがなものかと思う。
胃の検査だったらカメラのほうが被ばくもないし、精度も高いので絶対にカメラをお勧めする。
※ 追伸
バリウムを飲んだその日、しっかりお腹を壊してしまって一晩中トイレを往復することになってしまった(下剤も関係したのかもしれないけど)。
胃透視はもうこりごりだね。