2015.8.20(木)放射線治療の初日である。
昨日発行してもらった診察券を再診受付機に通すと、地下1階の放射線(治療)受付へと向かう。
ラジオ体操の出欠表のようなスタンプカードを所定のかごの中へ入れると、すぐに看護師が呼びにきた。

リニアック室は受付よりさらに奥まったところにあり、開放されたままの分厚い扉を1枚通り抜ける。
この扉は放射線が漏れた時には自動的に作動する仕組みになっているのであろうか。
リニアック室に入ると、下のような写真の機械がおごそかに鎮座していた。

<これはある病院の内覧会で撮影した最新型のリニアック>

 

 

看護師に促されて、リニアック室の中のカーテンで仕切られただけの簡単な脱衣所で上半身裸になり、言われたとおり病衣を片袖だけ通す。
リニアックの寝台に仰向けに寝転ぶと、目の前にはリニアックのガントリーヘッドがある。
ひざの下に三角形のクッションを差し込まれるとシェルで首と腕を固定されてしまい、天井を見ているしかなかったので何をされているのかよく分からない。

以下、箇条書きで状況を書いてみる。
・ 室内は空調の音と、終始ブーンという低い機械音がしていた。
・ 室内には技師が一人、助手が二人、看護師が一人いた。
・ リモコンで寝台の位置や僕が寝ているシーツごと直接動かし、体の位置を微修正させられる。
・ ガントリーの絞りがジリジリと動き、照射野が自在に変形する。
・ 目の前のガントリーヘッドが動くと、天井からターミネーターの赤い目のような光を発するセンサーが現れた。
・ 昨日と同じように、関係者総出で僕の上半身に皮膚ペンで落書きし、シールのようなものをペタペタと貼られる。
・ 時々リニアックから「ビー」という電子ブザー音が数秒鳴ったが、この時に放射線を照射されているのだと思った。

30分ほど経つと、技師が「それではこれから治療を始めていきます」という声で、「あらら、まだこれからだったんだ」と苦笑いする。
いやしかし、シェルで固定された首と腕が食い込んで段々と痛くなってきた。

最初にガントリーヘッドがウィーンと音を立てて右に回転し、僕の体に対して右斜め上で止まると、さっきと同じ「ビー」という電子ブザー音が10秒程度鳴る。
これは僕の左腋の下に照射しているのだろうなと思った。

(以下、照射されている時の僕の妄想・・・)
放射線によって僕の血がぐつぐつと沸騰し始め、照射されている部分がほのかに暖かくなる。
皮膚は微弱な電気を通されたようにピリピリする。
癌細胞の遺伝子にじわじわと傷がつき、それがみるみるうちに大きくなっていくが、一方で正常な細胞も傷つき、ポップコーンを作るときみたいに次々と割れ弾ける・・・。

続いてガントリーヘッドが目の前に止まったが、これは左胸を照射しているのだろう。
最後に大きく左へ回転すると、背中から左の首と鎖骨にかけて照射しているのだと思った。

「はい、終わりました。ゆっくりと腕をおろしてください」という声で、初めてのリニアックが終わった。
ガントリーが定位置に戻り、寝台がゆっくりと下がっていった。
位置決めに40分くらい、照射自体は3方向からで5分程度だっただろうか。
終わってみればあっけなかった。

これから毎日これを繰り返し、現在の予定では9/25が終了日となる。

服を着替える時にふと上半身を見ると、昨日は鳩尾のところに十文字の記号だけだったのに、今日は上半身のいたるところに幾何学模様の記号が書かれ、まるでジャングルに住む土着民の刺青のようだった。

一年前の手術から抗がん剤、ホルモン治療と副作用に悩まされながらここまで来たが、新たに放射線治療が始まった。
あともう少しと自分を奮い立たせてここまできたが、時には心が折れそうになって治療から逃げ出したくなる。

9/25までの毎日の放射線治療、そして年内いっぱいかかるであろうハーセプチン。
重い副作用は徐々に軽快し、体は以前より格段に楽になっているはずだが、「治療疲れ」という言葉があるのかどうか知らないが、少し精神的に疲れを感じている。
フルコースを終えた先輩方からすれば、「男のくせに甘えるんじゃないよ」とお叱りを受けそうだが。。。