再度の4泊5日の北九州出張から単身赴任元へと帰ってきた僕は、ベッドに疲れ切った体を投げ出して一人で宙をにらんでいた。
最近考えることと言えば一つしかない・・・、そう、再発疑惑のことだ。

そこでふっと思い出した。
先日大学病院への電話で冷たくあしらわれた後、手術をした病院に電話をかけた時は元主治医の診察日ではなかったので元患者と言っても取り次ぎさえしてくなれかったが、明日は月曜日。
れっきとした元主治医の診察日だ。
だったら普通に予約外診察で受付して、先生に相談に乗ってもらおうと思いたった。

2016.9.26
次の日、9時前に病院に到着した僕は慣れた手つきで診察券を自動受付機に挿入し、「外科」の診察ボタンを押して待合室へと向かった。
この日の診察では外科の先生は元主治医以外に数人いたので、外科の受付に立ち寄り、
「元主治医の患者なので元主治医の診察を希望します」
と告げておいた。

待合室で自分の番号を呼ばれるのをじっと待っていると、半年前、ケモを受けていた頃もこうして自分の順番が来るのを待っていたことを思い出す。
空いていた待合室の座席の関係上、僕が座っていた椅子はたまたまケモ室の前だった。
この朝の時間のケモ室のナースはバタバタと忙しくしているだろうけど、昔を懐かしんでケモ室をノックして少しだけ中をのぞいてみることにした。

中にいた顔なじみのナースが僕を迎え入れてくれて、約10か月ぶりの再開にも関わらず、僕の名前をちゃんと憶えていてくれていた。
ボストン旅行のお土産でケモ室に買ってきた赤いロブスターの巨大なぬいぐるみも、冷蔵庫の上にちょこんと鎮座していた。
久々の病院での再開に驚いていたが、
「マーカーが上がってきたので元主治医のところへ相談しに行くんです」
というと、顔に同情の表情が浮かんだ。
予想したとおり、お世話になった頼りがいのあるがん化学療法認定看護師さんは今年の3月でこの病院を退職し、別の病院へ移ったとのことだった。
「最後までたいちさんのことを気にしていたよ」
って聞いた時は、たとえ儀礼的な言葉でも涙がこぼれそうになった。

待合室に戻ってしばらくすると、元主治医付のナースが僕のところへやってきて久々の再開のご挨拶をした。
やっぱり僕のことを知ってくれる人がいる病院って、居心地がいいな。
ナースに今日訪問した理由を説明し、
「まだ病院を決めかねているので必要なら開封してもらっても結構です」
と、クリニックで書いてもらった診療情報提供書(大学病院宛のもの)を手渡した。

およそ2時間後、僕の名前が呼ばれ、久しぶりの主治医と対面することになった。
以下、先生とのやりとりを箇条書きでまとめる。

○ 腫瘍マーカーが2回連続して上昇傾向にあるというのは、再発の可能性が濃厚である。
○ この病院で再発を確定させることができる検査は、血液、MRI、CT、骨シンチくらいだが、血液検査の結果はこの診療情報提供書に付いているので調べなくてもいいだろう。
脳や骨への転移なら体に何らかの症状が出ているはずなので、まずは胸骨裏にあった腫瘍(昨年末時点では消失)がどうなっているのかを確認したい。
胸のCTなら肝臓まで撮れるのでちょうどいいだろう。
○ 再発するとなると一生病院と付き合って行かなければならないだろうけど、それぞれの病院には特色がある。
(大学病院)
希少症例を取り扱うことが多いし、治験の機会もある。しかし大きい病院なので横の連携が十分ではなく、待ち時間も長いと思う。
(乳腺で有名なある病院)
上記の大学病院系列だが、有名なのでいつも混雑している。
(この病院)
標準治療なら十分対応できるが、PET-CTやリニアックなどの設備がない。
しかし頻回に使う設備でもないのでそこは問題にならないのでは?
(市民病院)
○○大学系列で、大学病院と同じような感じ。

とのことで、どの病院でも元主治医が知っている特定の先生はいないので、「乳腺担当医」宛の紹介状を書くことになる。
○  再発が確定し、ケモを再開するようになったら、急で重篤な副作用が発現する可能性もあるので、病院選びは居住拠点の近くのほうがいい。
○ 診療科は腫瘍内科ではなく、乳腺科でいいと思う。
とのことだった。

とりあえず、翌日に胸の単純CTの予約を入れてもらったが、元主治医の診察日である次の月曜日は僕は単身赴任先にいるので、結果を聞くのは妻に託すことにした。

さて、まだ確定したわけではないが、再発治療先をどこにしようか。
そして単身赴任をどうしようか。

治験などに興味がない僕は、もともと標準治療が受けられればそれでいいと思っている。
ただただこの元主治医がいる病院で不満なのは、この元主治医がただの外科医で、しかもカンファレンスのシステムがこの病院は充実していないというとこだけである。
あとは自宅から歩いて5分だし、大きな不満はない。

大学病院にするか、元主治医を再び主治医にするか・・・。
そして仕事は?
もう少し悩む日々が続きそうである。