ペインクリニックの受診後、注意深く右手首を観察しながら暮らしていたがどうも劇的によくなったという感じがしない。
ステロイド注入の効果は1週間くらいからじわじわと効き始めるらしいので、効果のほどを心待ちにしていたが、普通に右手を使っていた僕も悪いのだろうけど4日を過ぎると完全に痛みが戻ってきてしまった。

あの時先生は、
「ステロイドは腱を弱くする副作用があるとのことで何度も打つことはできないが、5日経っても痛みが引かなければもう一度来てください」
と言っていた。
しかし僕の胸のあたりに定住しているビビりの神様が、
「前回の注射は思ったより痛くなかったけど、今回はひょっとしたら薬を変えたりなんかしてものすごく痛いかもよ」
なんて囁きかけてくるので、またしても病院を迷い始める。
しかし、痛みとビビりの神様との目に見えない壮絶な戦いの結果、またしても痛みが勝った。
この痛みは今すぐ何とかしてもらわないと無理だ。

末期がんの癌性疼痛は耐え難い痛みである・・・というのは知識として知っているし、ブログの闘病記でもよく目にしてきたところで、この痛みのコントロールにはモルヒネなどの医療用麻薬を使うことが多いようだ。
ビビりの僕はこの癌性疼痛なるものにすでに怯え始めているが、なにしろこれまで経験したことがない痛みだけになんとも想像がつかない。
かつて僕の左胸に癌が住んでいた時は何度かキリキリとものすごく痛んだ時があって、思わず下着のシャツを乳首から浮かせてフーフーと息を吹きかけるほどだったが、もちろんそんなもので痛みは治まらない。
しかしそんなことでもしたくなるほどの痛みだったし、またそれしか痛みからの救済を思いつかなかったのである。

今回の腱鞘炎はあの時の痛みとはまた別の種類の痛みだが、そのインパクトはあの時の痛みに匹敵するほどだ。
僕の腱鞘炎はドケルバンと言って、親指の腱を動かすことでするどい痛みが生じる。
しかし人間の手というのは非常に複雑にできているようで、どんなに親指を動かさないように気を付けていても何かしらの手指の動作が親指の腱に影響し、自分でも予期しない時に突然痛みがくる。
親指を動かしていない時でも常にじんじんと重い痛みがあって、この痛みに呼応するかのように軽い頭痛までしてくる。
そしてこの痛みは人を非常に疲れさせ、やる気と生活力を奪ってしまう。

単身赴任中の身なので、炊事、洗濯、掃除などの家事は自分でやるしかないのだが、絶え間ない不快な痛みのせいで全くやる気が起こらない。
僕はA型なのでどちらかと言えばきっちりしており、決してだらしない人間だとは思っていないが、全ての動作が億劫になり、ここ最近の土日はすっかり引きこもりのようになってしまっていた。

2016.6.30
今回は電話ではなくWEBから予約した僕は、仕事を中抜けしてペインクリニックへと向かった。
診察室に入ると2回目なので、すでに机の上に注射器やら消毒などがセットしてあって、深呼吸をする暇もなく消毒液を手首に塗られた。
「あれからどうですか?」
と、先生は準備をしながら僕に話しかける。
「2、3日くらいは少しましだったような気がしましたが、また痛みが戻ってきました。きっと安静にしてないからでしょうね。」
と言うと、先生は何も言わずに呆れた顔をしていた。

ビビりの神様が囁いたとおり、注射は前回より痛かったが注入時間は短かったような気がした。
「ステロイドは何回くらい打てるものなのですか?」
と聞くと、
「腱を弱くすると言われているので、あまり何回も打てないよ。」
と、明確に何回とはおっしゃらなかった。
「今回もステロイドって入ってますか?」
「いや、今回は入れてないよ」
あれ、そうなの?んじゃ、僕は2時間程度の痛み止めのためにわざわざ仕事を抜けて痛い注射をしに来たの?がっかりしながらクリニックを後にした。

それでもキシロカインはいい仕事をしてくれた。
前回と同じく全く痛みを消し去ってしまい、痛みがない手首ってこんなに素晴らしいものなのかとしばらくの間は夢心地だった。
ただ、本来痛みは手首が発する異常警報。
麻酔で痛みを消しているだけなので、調子に乗っていると麻酔の効果が消えた時にえらい目にあう。
そう思った僕は、痛みが消えた手を使わないようできるだけかばった。
2時間なんてあっという間で、やがて手首には前と同じ痛みがじわじわと帰ってきた。

今回ステロイドを打ってもらえなかったので現状維持といえばそうなのだが、一つだけ良かったことがあると言えば「手をかばう」ことを覚えたことだ。
会社ではマウスを左手に持ち替え、キーボードを打つ時もできるだけ親指から離れた指を使う。
普段の生活では意識して左手を使う・・・などだが、左手はリンパ浮腫を抱えているのでこれにも気をつけなくちゃいけない。
このせいかどうか分からないが、ここ数日、僕の左手の浮腫は自分でも見たことがないほど腫れてしまっていた。

最後に、腱鞘炎になった方へ僕の体験からアドバイスを送るとすれば、
① ペインクリニックは麻酔科の先生であって外科医ではないので、痛みをとる専門家であっても外科的手法からの処置はしてくれないので、僕は整形外科をお勧めする。
② 腱鞘炎は安静が一番で、できるだけ腱鞘炎になった指は使わないようにする。

安静にすることを覚えたのでしばらくこれで様子を見たいと思うが、もうペインクリニックに行くことはないだろう。
医者に限らずだが呆れられるというのはあまり気持ちのいいことではない。
病院に行くなら腱鞘炎治療に熱心な手の整形外科医を探そうと思う。