言うまでもなく男には珍しい病気である。
日本乳癌学会の「患者さんのための乳がん診療ガイドライン」によると、乳がん患者の150人に1人が男性乳がんで、好発年齢は比較的高齢者が多いという。
この珍しさ故に、検査結果を聞くまでは、
「僕が乳がんなわけなかろう」が8割、「でももしがんだったらどうしよう」が2割、ドキドキはしていたがまあ心配することはないだろうと思っていた。
しかし、その予想はあっさりとくつがえされた。

「たいちさん、悪いものがでましたね」
先日の針生検の結果を聞きに言った僕は、後に僕の主治医となる先生から「がん」であることの告知を受けた。
そしてその場で手術と術前検査の日程がばたばたと決まっていったので、「男が乳がん!」なんてびっくりする暇もなかったというのが正直なところだ。
当日できる検査はそのまま病院で受けた後、自宅に戻ってからはただただ絶望と悲しみに打ちひしがれ、自分が癌になってしまったという容易には受け入れ難い現実を前に、僕にとってはそれがどこの部位の癌なのかはあまり関係なかったのである。

しかし・・・・。
僕の周りの人たちの反応は違った。
癌であることをカミングアウトすると、だいたい一様に驚きと憐みの表情が浮かぶのだが、それが乳がんであることが分かると途端に「好奇」の視線になる。
「へー、男でもなるんだねーー。」
「え?これって奥さんの話なの?」
「乳がん!えー、ぎゃはは・・・。あ、笑ってごめんね。」
と、まあだいたいこんな感じだ。

一般人だけではない。
当時通っていたかかりつけの内科や心療内科の医師、またケモ以外の看護師さんでも驚くのだから、男で乳がんだなんて相当珍しいものなんだと思う。

手術した左胸には一文字の傷跡が脇の下まで大きく残り、乳首もなくなった。
自分が癌であることや、人前で裸になって胸の手術跡を晒さなければならないようなことがあった時、自分が男には珍しい乳がんであることを説明するのは、胃がんや肺がんと違ってとても煩わしい。
また好奇な目で見られ、ひそひそと噂になるのも勘弁してほしい。

手術からもうすぐ一年になるが、未だに鏡を通して自分の裸を見ることができない。
妻にもこの手術痕を見せたくはない。