2017.9.21
さすがに3回目の陥入爪手術ともなるとかつてのように過度に緊張はしなかったが、それでも自宅を出る時にはしっかりとデパスを飲んだ。
クリニックには予約した11:00の10分前に着いた。
待ち合い室には3〜4人の男女が座っていたが、やがて1人減り、2人減り、とうとう僕一人になってしまった。
「たいちさん、どうぞー」と呼ばれて診察室に入ると、先生が先日の診察の時と同じくにこやかに僕を迎え入れてくれた。
前回の時には気づかなかったけど、診察室の奥には処置室があり、ベッドが一つ置いてあった。
ここで靴と靴下を脱ぎながら、
「先生、今回は左右両足の親指の内側なんですが、予防的に外側を一緒に切ってもらうことはできますか?」
と聞くと、他の患者さんからもよく言われるけど、怪我をしていないものを予防的に切ることはできないとのことだった。
病名は「両母趾陥入爪」
術式は「根治術(フェノール法)」
※ 親指の爪が8分の1無くなる。
僕はベッドに横たわると目を閉じて、静かに両手を胸の前で組む。
そして怖いときの僕の癖で、左手の親指の爪を立てて人差し指に強く食い込ませる。
前回、前々回とも局麻の注射は「チクン」程度でそう痛くはなかったはず…という記憶はすぐに打ち破られた。
まず左の親指の付け根の表と裏に2回穿刺されたが、最初の「チクン」はすぐにネジ回しを垂直に突き立てられてグリグリされたような痛さに変わった。
思わず顔をしかめ、左手の親指をますます深く食い込ませる。
そして同じように右足の親指にも穿刺をする。
もう全身汗まみれで、ふっと気を緩めると45歳の大人でも「くぅぅー」と泣けるような痛みだった。
前回、局麻なんて大っきらいだあー!って思ったことを今思い出した。
(※ 痛みには個人差があります。)
ここで麻酔が効いてくるのを10分待つ。
先生はその間に隣の診察室で患者さんを一人診察していた。
でも経験上痛いのはここまでで、あとは引っ張られたり押し込まれたりするような奇妙な感覚に耐え、麻酔が効いてないところへの痛みが徐々に増すのを警戒するだけだ。
手術はもう半分終わっている。
10分後、処置室へ戻ってきた先生は僕の足先に座り、
「それでは始めていきますねー」
と僕に声を掛けた。
先生は身構える僕に、
「痛くないですかー」
と聞くが、もう足に感覚がないことが分かって僕は少しだけ全身硬直状態を緩めた。
左足から「パチン、パチン、パチン」と3回爪を切る音がして、その後右足からも同じ音が聞こえてくる。
「それでは始めていきますねー。看護師さん、カウントをお願いします。」
と、多分これから爪母の抜爪とフェノールの塗布に移るのだろう。
看護師さんは30秒ごとに手術開始からの経過時間を読み上げる。
僕はベッドに横たわり、天井を向いたまま目をつぶっていたので、先生の処置は全く見ていない。
前回の手術の時は爪母を引き抜くときにぐいぐいっと力技で引き抜かれた感覚があったが、今回はそれはなかった。
前夜にYou Tubeでフェノール法の手術動画を見ていたので、「あ、多分今綿棒でフェノールを塗っているんだな」・・・くらいは分かった。
さて、次は右足だ・・・と思っていると、あれ、看護師さんと一緒になって何やら包帯を巻かれている感覚がする。
まさか、もう終わったわけじゃないよねぇ・・・と思っていたらホントに終わってた。
きっと左足の処置をしている間に右足に麻酔が完全に効いたのだろう、触られている感覚すらなかった。
看護師さんのカウントはちょうど3分で、麻酔を打ってから15分ほどで両足の手術が終わった。
○ 12時30分には麻酔が切れるので、処方したロキソニンをすぐに飲むこと
○ 今日はお風呂には入らないこと
○ 血が滲んできたら上からガーゼを継ぎ足して止血すること
○ 翌日からは石鹸でよく洗い、乾燥させた後は軟膏を塗って絆創膏を貼ること
○ 1週間後、もう一度病院へ来ること。
○ 何か異常があればすぐに病院に連絡すること
などの注意事項を受けて、僕は心からの感謝を込めて深々とお辞儀をした。
「先生、ありがとうございました!」
待合室でお会計を待っている間、「これでホントに終わったんだ」と思うと胸の奥からじんわりと暖かいものが込み上げてきた。
いつも100枚入りの絆創膏を箱で買い、それを両方の親指に巻いて出かけていた。
一歩を踏み出すたびに小刀で小さく裂かれるように痛むので、痛み止めは必須だった。
自宅に帰ってきたら親指のところに膿がうっすらと滲んだ靴下を脱ぎ、ため息をつきながら血液と膿で汚れた絆創膏をそっとはぎ取っていた。
陥入爪の親指はいつも爪囲炎を起こしていて、ちょっとなにかにぶつけただけでたっぷり3分間はその場にうずくまるほどの激痛だった。
2015年3月にアブラキサンによる爪床剥離を起こしてから2年半もの間、毎日これを繰り返してきたのである。
通った病院は3ヵ所、手術は2回受けた。
「もう諦めた!」って心から思っていたつもりだったが、暖かいものがこみ上げてくるということは諦めきれてはいなかったのだろう。
一人で抱え込むしかなかったこの辛さからの開放・・・。
決して大げさに言っているのではない。
残った不安は、
○ 再発・・・根治法とは言っても0ではない
○ 今回切ったのとは反対側への発症
だけど、それはしばらくの間は考えないことにする。
最後に・・・。
今回はフェノールという薬品で二度と爪が生えてこない処置をしてもらったが、この治療法は医師の中でも賛否両論ある。
歯医者でも最近はむやみに抜歯をせず、少しでも歯を残そうとしてくれるようなこの時代。
本来人間に備わっているものを取ってしまうことによる影響を、僕もぎりぎりまで考え悩んだ。
同じく陥入爪に悩んでいる方は、僕のようにフェノール法を適用することについてはよく考えた上で選択なさってください。
取返しはつきませんから・・・。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
んーーー、病院からの帰り、痛み止めを飲んでも足がじんじんと痛む・・・。
局麻と手術に耐えた自分へのご褒美として、お昼ごはんは「やぶそば」の2,000円の栗おこわご膳にした。
※ ごはんの蓋を開けるのを忘れてた!