驚きはしなかった。国木田から話を聞いた時に予想はしていた。家に帰って来ないのなら、家出したか事故にあったかのどちらかだからな。事故にあった可能性も考えたが、そんなことあるはずがないと打ち消していた。
「そうか…。」
それだけ呟いて言葉が詰まる。これ以上の詮索はかえって相手を傷付けてしまう。相手から言わない限り、その理由について知ってはならないのだ。しかし、如月は俺が気を使っているのに気付いたのだろうか、頬を真っ赤に染めて俯きながらも話し始めた。
「私、親とケンカしたんだ。…家に帰ってくるのが遅いって、そんな友達とは遊ぶなって、別に新崎くんが悪いわけじゃないのに…まるで、新崎くんが悪いみたいに言うからムカついて…。」
それで、家出したわけか…。胸が痛む。俺のせいではないと言われると、かえって自分が悪いような、そんな感情になる。いや、俺にも悪い点があったんだ。だから、独りで罪を背負おうとしている如月に胸が痛むのだ。
「いや、俺にも悪いところはあったよ。」
この言葉が独りで罪を背負う如月への助力になりえるだろうか。
「そんなことないよ。新崎くんは何も悪くない。悪いのは、新崎くんを連れ回した私の方だよ…。」





その少女、如月は突然話しかけられたせいか、かなり驚いていた。俺は何も言わずに如月の横に腰掛ける。しかし、いざ話すとなると、何を聞けばいいのかわからなくなる。なんて声をかけてやればいいのか、俺に出来ることは何なのか、俺には見当もつかなかった。でも、もし俺に出来ることがあるならば…こいつの助けになれるなら…何かしてやりたいと、そう思った。

5分程経ってからだろうか、正確な時間はわからないが、おそらくそれぐらいは経っている筈だ。如月が突然、口を開いた。
「どうして、私がここにいるってわかったの?」
唐突な質問に言葉が詰まる。如月が家にいないと国木田から聞いた時、何故か頭の中にこの公園の光景が浮かんでいた。如月と俺の思い出の場所、如月が俺を待って、この場所にいる。そんな気がしてならなかった。だが、そんなことを面と向かって本人に言えるほど、俺は正直者じゃない。
「わからない。ただ、なんとなくここにいるような気がしたのさ。」
如月は少し顔を赤らめたようだった。俺の言葉に照れるような要素はあったのだろうか。それから数秒間の沈黙…しかし、先程よりは空気が軽くなった気がする。
「私ね、家出したの…。」

一抹の不安が俺の頭によぎった。が、すぐにそれをかき消す。そんなことはあるはずがないと決めつけた。
「僕の親と彼女の親は仲が良くてね。それで今日の朝、連絡があったんだけど…昨日の夜から彼女、家に帰っていないらしいんだ。」
言葉が出なかった。国木田の話しいることが全て夢ならばいいのにと、そう思った。でも、現実だった。だから、立ち止まってはいられなかった。気付いたら俺は家を飛び出していた。


家から走り始めて、どれくらいの時間が経ったのだろうか。自分でもわからなかった。ふと、空を見上げる。雲行きは怪しく、今にも大粒の雨が降り出しそうな天候だった。その天候のせいで不安定な気持ちに拍車がかかる-かなり動揺していた。息を切らしながらも俺はある場所を目指していた。

俺は目的地へ着き、足を止める。駅前の公園、人の姿はあまりない。平日の正午前なんてのはいつもこんな感じなのだろうが、やけに静まり返っているようにも思えた。それは、公園のベンチに座る独りの少女を気遣っているかのように…
「よぅ」
汗ばんだ額を拭いながら、自然とそんな言葉が出た。
「し、新崎くん!?」