司法試験受験生ジャッキーの日々雑感

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このブログでは、日々の勉強の記録をはじめとして、法律問題等社会で起こっているさまざまな問題について自分なりの見解や疑問を徒然なるままに書きます。

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こんにちは、ジャッキーです(^_^)
本日、2回目のUPです。


今回は、貸借型理論について書きたいと思います。

ただ、内容は結構高度な上に、若干細かい点に入り込んでいるので、余興程度に読んでください。






次の事例を読んで、原告Xはどういう事実を主張すべきか考えてみてください。


事例:
Xは、2009年7月8日に、Yから融資の依頼を受けたため、弁済期を定めずに3,000万円を融資することにした。翌9日に、Xは、Y名義の銀行口座に、3000万円を振替送金した。
2010年7月9日、Xは自分の事業のためにお金が必要になったので、3,000万円の返済を催促したところ、Yは、これに応じなかった。
同年7月15日、Xは、Yに対して、3,000万円の返還を請求する訴えを提起した。





まず、貸借型理論の説明に入る前に、判例と学説の理解の違いを説明します。


判例は、「消費貸借契約の成立のみによって直ちに借主に返還義務が発生し、返還時期が到来するまでその履行が猶予されている」と考えます。
そのため、権利発生根拠事実としては「返還合意+目的物の交付」のみで足り、返還時期の合意及びその未到来は権利発生障害事実と考えます。


本問に当てはめると、原告Xとしては、
「XはYに対して、2009年7月9日に、金3000万円を貸し付けた。」
という事実を主張することになります。



これに対し、学説は、「消費貸借契約が成立しただけでなく、返還時期が到来してはじめて返還請求できる」と考えます。
そのため、返還時期の到来、及びその前提としての返還時期の合意が権利発生根拠事実となります。



⇒つまり、判例と学説の対立点は、消費貸借契約に基づく貸金返還請求権の発生を基礎付けるために、返還時期の到来が必要か否かという点にあります。





そして、学説は、さらに2つに分かれます。

②-Ⅰ

まず、第一の見解は、返還時期の合意は消費貸借契約の不可欠の要素であり、契約の成立要件であるとする考え方です。
この見解に立てば、返還時期の合意がない場合、消費貸借契約は不成立となるのが素直な結論ですが、当事者意思を合理的に解釈して、返還時期を貸主が催告したときから相当期間が経過したときとする合意があったと考えます。


本問に当てはめると、原告Xとしては、
「1 XはYに対して、2009年7月9日に、返還時期を定めずに(=返還時期を催告後相当期間経過後として)、金3000万円を貸し付けた。
 2 XはYに対して、2010年7月9日に、1の金3000万円につき、その返還を催告した。」
という事実を主張することになります。


②-Ⅱ

第二の見解は、返還時期の合意は消費貸借契約の不可欠の要素ではあるが、契約の成立要件ではないとする考え方です。
この見解に立てば、返還時期の合意がない場合でも、問題なく消費貸借契約は成立します。

ただ、返還時期の合意がないので、返還時期はいつ到来するのかという問題にぶち当たります。この点の問題に対処するために規定されたのが、591条1項だと考えます。つまり、591条1項は、返還時期の合意がないときは相当期間を定めて催告できると規定していますが、そもそも返還時期の合意がないため契約不成立と考えるのであれば、履行を目的とする催告云々は意味がないはずであり、催告できるとしたことは、すなわち、弁済期の合意がなくとも契約は成立するということを前提にしているといえる、と理解するのです。


本問に当てはめると、原告Xとしては、
「1 XはYに対して、2009年7月9日に、金3000万円を貸し付けた。
 2 XはYに対して、2010年7月9日に、1の金3000万円につき、その返還を催告した。」
という事実を主張することになります。


⇒つまり、第一の見解と第二の見解の対立点は、返還時期の合意を貸借型契約の成立要件と考えるか否か、という点にあります。






以上が、判例、学説の整理です。
ちなみに、ここまでの説明では、あえて貸借型理論という言葉を使いませんでした。
その理由は後からわかると思います。



では、貸借型理論とは何なのでしょうか。
類型別p27によると、貸借型理論とは、「貸借型の契約は、一定の価値をある期間借主に利用させることに特色があり、契約の目的物を受け取るや否や直ちに返還すべき貸借は、およそ無意味であるから、貸借型の契約にあっては、返還時期の合意は、単なる法律行為の付款ではなく、その契約に不可欠の要素である」と解する理論をいうようです。



ここで理解すべき第一点として、貸借型理論は「返還時期の合意」を契約に不可欠の要素とする理論であって、判例と学説が対立している、貸借型契約に基づく目的物返還請求権の発生を基礎付けるために返還時期の到来が必要か否か、という点に関する理論ではないという点です。

第二点として、貸借型理論は返還時期の合意を「契約に不可欠の要素」とする理論であって、契約成立に不可欠の要素(=成立要件)とする理論ではないという点です。



このような理解を前提とすると、貸借型理論を採用しているのは、上記で述べた学説の見解双方ということになります。

ただ、第二の点に関しては異論もありえます。貸借型理論を考え出した研修所は、貸借型理論を「返還時期の合意は契約に不可欠の要素であり、契約成立要件である」と理解しており、後から入ってきた学説が貸借型理論の意味内容を変化させたにすぎず、真の意味で貸借型理論を採用しているのは、学説の見解のうち第一の見解のみという理解です。



ジャッキーは後者の見解が正しいと思うのですが、山敬は前者の理解を採用しています。
山敬p380は次のように言います。
「貸借型の契約について、『返還時期』が不可欠の構成要素であるとしても、そこからただちに、すべての構成要素について当事者の『合意』がなければならないと考える必要はない。
 …たとえば、目的物を返還することが合意されていれば、契約自体は成立すると見ることも不可能ではない。むしろ、591条1項は、契約自体は成立していることを前提とした上で、合意が欠けている場合にそれを補充するために定められた―返還時期の合意は契約の成立要件ではないとする立場を示した―ものと見るのが自然である。
 …合意存在構成(※このブログでいう第一の見解)は、契約の構成要素に関する理解を成立要件に直結させているところに問題がある」、と。





論理の順序が逆になったりして、ちょっとこんがらがっているので、ここで、整理してみたいと思います。


貸借型の契約では一定期間相手方に目的物を利用させる点に意味があるのであって、渡す(契約成立)と同時に直ちに返還すべき貸借はおよそ意味がない。

したがって、貸借型契約にとって、返還時期の合意は契約の不可欠の構成要素であって、返還時期の合意及びその到来を主張立証することで、はじめて貸借型契約に基づく目的物返還請求権の発生を基礎付けることができる。

としても、返還時期の定めがない場合は、どう考えるか。

貸借型契約では相手方に目的物を利用させる点に本質があることは既に述べたとおりであり、そうすると、返還時期の合意は、契約成立要件と解するのが素直である。

ただそうする、返還時期の合意がない場合には、本来ならば、契約は不成立となるが、当事者の意思を合理的に解釈すれば、返還時期を、貸主が返還を催告したときから相当期間が経過したとき、とする合意があったとみることができる。

したがって、返還時期の定めがない場合でも契約は成立するが、返還時期の合意は貸借型契約の成立要件であるから、返還時期を定めなかったこと(=返還時期を催告後相当期間経過後とする合意があったこと)を、権利発生根拠事実として主張する必要がある。


OR


としても、返還時期の定めがない場合は、どう考えるか。

貸借型契約では相手方に目的物を利用させる点に本質があることは既に述べたとおりであるが、契約の成立要件と解すべき必然性はない。591条1項は、返還時期を定めない場合に、相当期間を定めた催告ができるとするが、そもそも返還時期の合意を契約成立要件と考え、右合意がない場合には契約不成立とするならば、履行を目的とする催告は法律的に何ら意味はないはずであり、催告できるとしたことは、すなわち、弁済期の合意がなくとも契約は成立するのであって、返還時期の合意は契約の成立要件ではないとの立場を民法は採用したということができる。

したがって、返還時期の定めがない場合にも、問題なく契約は成立するのであって、返還時期の合意を契約の成立要件と解する立場のように、返還時期を定めなかったことを権利発生根拠事実としてあえて主張する必要はない。






少し混乱させてしまったかもしれません。

また、実益性の薄い細かい議論に入り込んでいる感もあります。

ただ、貸借型理論は要件事実のイロハのイなので、正確に理解しておくにこしたことはないと思い、自分の勉強のためにもカキコしました。

とにもかくにも、皆さんの勉強に役立てれば幸いです。





では~( ̄▽+ ̄*)
ジャッキーでした☆