ほどなくして、遼一と舞が食堂にやってきた。
綾人と沙良は、窓際の席に座り、二人を招き入れる。
そして、2人の雰囲気が重く、暗い事に気付いた。
遼一は明らかに俯き、舞はなんだかとても不機嫌だった。
「…、遼さん?舞さん、何かあったんですか…」
綾人は沙良と目で合図を交わしながら、二人の様子を伺う。
この二人が喧嘩なんて、珍しい。
初めて見たと思う。
この二人は付き合いが長いのもあってか、熟年夫婦のような安心感がある。
夫婦漫才のように息が合っていて、見ていて心地が良い。
「…舞さーん…」
沙良が遠慮がちに舞に声をかけた。
スープを運ぶシェフも、ちょっと遠慮気味だった。
「…、ごめんね、綾人、沙良。空気悪いよね。せっかくの夕食なのに」
「そうですよぉ…。舞さんも遼さんも、ここの夕食めっちゃ楽しみにしてたじゃないですかぁ…」
「うん…、ごめん」
「どうしたんですか…?何かありました?」
舞は、目の前でうなだれる遼一をチラッと見て、小さくため息をついた。
「別に、何も…」
「そんなわけないですよぉ…」
「本当に、何もないの。お庭で写真を撮ってたら、遼一が突然、こうなって…。ずっと下を向いたまま、話しかけてもぶつぶつ独り言言ってて」
「独り言?」
「ミサに会いたいって」
「遼さん、ミサって誰なんですか?」
遼一は何も答えず、俯いたままだった。
「ずっとこんな感じなの。ミサって誰?って聞いても答えないし、話しかけても何の反応もなくて。で、やっと聞き取れたのが、ミサに会いたいって言葉」
ふと遼一が俯いたまま立ち上がった。
「遼さん?」
遼一は、綾人の顔を一瞬見て、…そして。
「ミサに会いたい」
と小さく呟いて、エントランスの方に向かって歩いて行ってしまった。
「なんなの、あれ。なんなのよっ」
舞が顔を真っ赤にして怒鳴った。
目がウルっとして今にも泣き出しそうだった。
「おれ、ちょっと遼さんと話してくるよ。沙良は舞さんといて」
「綾人、いいよもう。ほっといて。食べよ!楽しみにしてたんだしさ」
「でも」
「いいんだって。隠し事があるんでしょ。本当に腹立つけど、こんなんでせっかくの夕食台無しにしたくないの。ほっとけばいい。あんな遼一は見たくないわ」
結局、食事どころではなく、舞は今にも泣きそうな顔で俯いたまま、沙良はオロオロするばかりだった。
様子を伺っていたシェフが、綾人を手招きし、こっそり耳打ちした。
「とりあえず、一旦解散した方がいいんじゃない?別にご飯は言ってくれれば夜中でも温め直すし。遼一くんの様子を見て来た方がいいよ。彼は明らかに様子が変だった」
「そうですね…。すみません。いろいろ用意してくれてたのに」
「いやいや、まずは、真相究明して仲直りが先決だよ」
綾人は舞と沙良のところに行き、とりあえず部屋で休もうと提案した。
舞は、こくん、と小さく頷きシェフに頭を下げた。
「ごめんなさい…」
「いやいや、気にしないで。お客様の体調と心情が1番大事だからね。お腹が空いたら、いつでも内線鳴らして食べに来るといいよ、もちろん夜中でもオッケーだから」
