今回はルコントドリールの「コンドルの眠り」という詩を訳してみました。

コンドルの逞しさと美しさが歌われている作品なので、ぜひご一読くださいね。

 

Le Sommeil du Condor.

Par delà l’escalier des roides Cordillères,
Par delà les brouillards hantés des aigles noirs,
Plus haut que les sommets creusés en entonnoirs
Où bout le flux sanglant des laves familières,
L’envergure pendante et rouge par endroits,
Le vaste Oiseau, tout plein d’une morne indolence,
Regarde l’Amérique et l’espace en silence,
Et le sombre soleil qui meurt dans ses yeux froids.
La nuit roule de l’Est, où les pampas sauvages
Sous les monts étagés s’élargissent sans fin ;
Elle endort le Chili, les villes, les rivages,
Et la mer Pacifique, et l’horizon divin ;
Du continent muet elle s’est emparée :
Des sables aux coteaux, des gorges aux versants,
De cime en cime, elle enfle, en tourbillons croissants,
Le lourd débordement de sa haute marée.
Lui, comme un spectre, seul, au front du pic altier,
Baigné d’une lueur qui saigne sur la neige,
Il attend cette mer sinistre qui l’assiège :
Elle arrive, déferle, et le couvre en entier.
Dans l’abîme sans fond la Croix australe allume
Sur les côtes du ciel son phare constellé.
Il râle de plaisir, il agite sa plume,
Il érige son cou musculeux et pelé,
Il s’enlève en fouettant l’âpre neige des Andes,
Dans un cri rauque il monte où n’atteint pas le vent,
Et, loin du globe noir, loin de l’astre vivant,
Il dort dans l’air glacé, les ailes toutes grandes.

(テクストはhttps://fr.wikisource.org/wiki/Le_Sommeil_du_condorより)

 


アンデス山脈の険しい山々の階段を越えて、
黒い鷲が飛び回る霧を越えて、
血のような色の慣れ親しんだ溶岩が多量に沸き立っているような、
すり鉢状にえぐられた山の頂よりも高いところで、
ところどころ赤みがかった翼を宙にぶら下げるように広げながら、
陰気な無気力で満たされた大きな鳥が見つめるのは、
静かな空とアメリカ大陸と、
そして、その鳥の冷たい目の中で今にも死なんとする暗い太陽だ。
夜が東から広がる。
東の荒涼とした大草原が、階段状になった山々のふもとで際限なく大きくなっていく。
夜は眠らせるのだ、チリを、沿岸の町を、
太平洋を、そして神々しい地平線を。
夜はこの静かな大陸を自分のものとした。
砂漠から小さな丘々にいたるまで、峡谷から山の斜面にいたるまで、
山頂から山頂へと、夜は、次第に強まる旋風のように、
闇の高潮の横溢を膨らませていく。
コンドルは待つのだ、あたかも亡霊のように、ただ一人で、そびえたつ尖峰の頂にあって、
雪の上で血を流すほのかな光に浸されながら、
この不吉な海が自らを取り囲むのを。
夜は押し寄せる波のよう訪れて、コンドルをすっかり覆ってしまう。
底知れぬ深淵の中で、南十字星が、
天空の斜面に、星々の灯台の火をともす。
コンドルは喜びにあえぎ、翼をゆり動かし、
筋肉質で毛のない首を持ち上げ、
アンデスの厳しい雪を叩きつけながら、コンドルは飛び立ち、
しゃがれた叫び声をあげて、風が届かないところまで昇る。
そして、黒い地球から離れて、命のある星[訳注:夕日で死にゆく太陽のこと]からも離れて、
凍った大気の中で、大きな翼を広げて眠るのだ。
 

 

訳すうえでの語学的な疑問点ですが、il agite sa plumeのplume について、

plume は本来、羽の一本一本を言うみたいですが、ここは集合的な意味を持つ単数形で、

つまり羽全体のplumageの意味でとるといいのでしょうね。

ちょうど、cheveuでもavoir le cheveu noir で「黒髪である」というみたいですので。

 

補足としては、

この詩の光景は、南米の夕暮れ時の光景でしょうか。

「階段状になった山々」という表現から、アンデス山脈の棚田についての言及とも取れますが、

そこまで深読みしなくとも、山々のつらないということでいいでしょう。

(Terrasses de culture dans les Andes péruviennes)

 

もう一点、最後のコンドルの睡眠についてですが、

コンドルに限らず、飛行時間の長い鳥は飛び続けるために半球睡眠というのが備わっていて、

この詩の中のように眠りながら飛ぶことができるみたいですね。

 

最後に感想をのべさせてもらいます。

夕日が暮れて夜の闇が覆う世界の中で、沈む太陽は死や流血と結び付けられていますが、

そういった海に例えられる夜の洪水的な侵入にたいして、

かねてから無気力状態(indolence)の冷ややかなコンドルは、

雪のある高い所にいたこともあって、闇に覆われたとしても動じていない様子ですね。

むしろ、夜が訪れたことによって、コンドルが親しみを持っていた火山の溶岩が、

夜空の星々という形で、空一面に広がるさまは、内に秘めた理想の実現というように読み取れなくもないです。

しかし、あくまでそういった夜空の美しい光景のさなかであっても、

コンドルは眠りながら飛び続けるわけですから、

それまでの無気力状態は捨てることなく、

ありきたりの言葉で言えば禁欲的な生を営み続けることになるんだろうと思います。

この詩はとってもうっとりするようなエキゾチックな光景で、

前回のインドや今回の南米みたいなところへ旅行に出かけたくなりました。

でも今はこんなにつらい状況ですから、しばらく無理そうなのが残念です。

はやく収まって、みんなで楽しい平和な生活をしたいなあと本当に思います。

それまでは、詩の読むことで我慢するしかないのでしょうかね。

もし旅行に行けるようになったら、その旅の様子をこのブログでも紹介したいと思いますので、

いつになるかはわかりませんが、みなさまおたのしみに!