素肌つるつるセット

 

 

 

明日は終戦記念日ですね

 

 

私の父は大正15年生まれ

戦争で中国に行きました

 

中国では沼地を2週間かけて渡り

同期たちはその2週間の間に

殆どが沼に沈んでいったそうです

 

歩いて沼地を行くのですから

みんな体が冷えてお腹を下し

歩くことも立っていることもできなくなり

沈んでしまうのです

 

生き残った少人数で兵舎にたどり着きましたが

兵舎とは名ばかりで

食料もほとんどありません

 

命令を待つ数日の間に

どんどん仲間は亡くなっていく

 

2週間もの強行軍

体力は底をつき、ろくに食事もできない

みな、衰弱して餓死してしまうのです

 

兵舎にいる

ネズミだけが元気に走り回っていたそうです

 

動く気力もなく

死んだ仲間を埋めることもできず

ただネズミに齧られる遺体を

悲しく見つめることしかできなかったそう

 

 

そんな時に

兵舎の外から香ばしい匂いが漂ってきて

動けない身体で

なんとか外に出ると

幾人かの兵士が焚火を囲み

何かを貪り食っている

 

 

「俺にも食わしてくれ!」

 

 

父の後から這いずって出てきた兵士が

よろよろと焚火に近づき

焚火に焼かれていたものを取り上げたのが見えたそう

 

 

それは皮をはがれたネズミ

そう、亡くなった兵士の遺体を

食べていたネズミだったのです

 

 

父はそれを見て

胃の中は空っぽなのに

こみ上げる吐き気を抑えきれず

何度も何度もえずいて

 

悲しいというより

悔しい気持ちで

涙が止まらなかったと言います

 

 

それ以来

父はネズミが大の苦手

 

黒くてつやつやのGは

素手でつぶす豪気な父が

 

双子の姉が机の引き出しで

こっそり飼っていたハムスターを見て

この世の終わりかと思うよな悲鳴をあげて

腰を抜かすほど

ネズミが嫌いになったのです

 

 

 

私が高校生の時の夏休み

何やら騒がしい気配がして目が覚めて

リビングに行くと

 

おおぉい!おおぉい!

おおぉい!おおぉい!

 

凄まじい声・・・

 

立ち尽くしていた母が

涙を抑えながら

 

「お父さんのところに行ってあげて」

 

と言いました

 

「どうしたの⁈ 何があったの⁈」

 

驚きと困惑で胸が締め付けられました

 

 

「ままちが死ぬ夢を見たんだって…」

 

 

朝、もの凄い悲鳴を上げて飛び起きた父

そのまま階段を駆け上がり

 

私の部屋に飛び込んで

私が寝ているのを見ると

階下のリビングに行き

 

驚いてついてきた母に

 

「ままちが死ぬ夢を見た」

 

と言ったと思ったら

いきなり泣き出したそう

 

 

おおぉい!おおぉい!

おおぉい!おおぉい!

 

それは泣くなどというものではなく

まさに慟哭

 

身体の底から抑えようもなく

こみ上げる悲しみ

 

ワナワナと体を震わせて

両の拳で目を抑え

その間から流れ落ちる涙も構わず

 

 

おおぉい!おおぉい!

おおぉい!おおぉい!

 

私はたまらず

飛びつくように父に抱きついた

 

「パパ…」

 

父は私をかき抱き泣き続ける

 

 

 

しばらくして

やっと泣き止み落ち着いてきた父

 

 

「一体、どんな夢見たの?」

 

また泣いてしまうかとびくびくしながら聞いてみた

 

 

何度も生唾を飲み込み

掠れた声で

 

 

「シマシマの…」

 

シマシマの・・・?

 

 

「黒と白の…」

 

黒と白の・・・?

 

 

「ネズミ…」

 

はいっ???

 

 

切れ切れに語られる夢の話をまとめると

 

黒と白のシマシマネズミが

私を食べていて

それを助けようと父が立ち向かうのだが

何をどうしても助けることができずに

全部食べられてしまった

と、いう夢だったそう

 

 

ネズミは父のトラウマだ

終戦記念日が近づくと

悪夢を見る父

 

 

その年はそのトラウマと私が組み合わされ

そんな悪夢になったようだ

 

 

私も終戦記念日が近づくと

父と母の戦争体験の話を思い出します

 

 

 

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