「広ぇー!」
千明と源太が走り出すのを、すぐに流ノ介が掴まえた。
「こら、静かにしろ」
黒子に案内されて、広間に通される。
丈瑠が上座。向かい合って、流ノ介達が並ぶ。
きょろきょろしながら歩き回る千明と源太も、彦間に叱られ、大人しく並んで座った。
彦間は脇に控える。
程なく薫が丹波と共にやってきて、薫は丈瑠の隣に座り、丹波は前に立つ。
「今日ここへ来た理由は分かっているであろうな」
丹波の声が飛ぶ。
一同が頷いた。
呼ばれた理由は、これから起こる皆既日食。
丹波が続ける。
「古より『日の光翳り この世が闇に包まれし時 隙間赤く光りて 悪しきもの顕れる』と謂われ、その都度外道衆が現れておる。今回とて例外ではない」
「しかし、ドウコクは既に存在しません」
流ノ介が反論した。
「確かに。しかし、外道衆はドウコクだけではない。日食の間、ドウコクがいた時と同じほどの力を外道衆が持つと思えばよい」
「アヤカシが出るのか?」
千明も訊ねる。
「まあほとんどはナナシであろうが、皆既日食の数分間が一番危険である。外道衆の力が一番強くなる。その時はアヤカシも出て来ておかしくはない。まあ、そう考えて警戒するに超した事はないということだ。向こうはドウコクを失ったが、こちらも、シンケンジャーの力を失っておる。条件としては同等だ」
「でも、警戒するって言っても、どうやって」
外道衆の這い出る隙間はどこにでもある。
途方に暮れる千明に、茉子が答えた。
「皆既日食になる場所は限られているから、そこを重点的にすればいいんじゃない?」
「そのとおり。此度の日食は、関東地方のみ。つまり都だ。古来より、外道衆は都を狙ってくる」
「なら屋敷で、センサー鳴るの待ってればいいって事か?」
源太が楽観的に言う。
「それがそうはいかぬ」
横から彦間が首を振った。
「センサーが働かん。日食の間はモヂカラが弱まるからな。その辺は前もって勉強したであろう」
千明と源太を除いて、皆が頷く。
今日、日食が起こる事は、以前から分かっていた事だ。外道衆が現れる事も伝えられいて、皆、一応勉強している。
「千明、源太、さぼっておったな」
彦間が一喝し、千明と源太が互いに突き合う。
「だってよ、じいちゃん、俺あんな文字読めねえし」
「だからわざわざお前には訳した物を渡したであろう。栞殿が直々に訳してくれたのだぞ。源太、さては開いてもおらぬな」
「源ちゃん、そりゃ駄目だよ。俺、一応開いたもん」
「読んでないのでは、どちらも変わらん」
彦間に立ち上がらんばかりに怒鳴られ、千明と源太が縮み上がる。丈瑠や流ノ介達も呆れて見ている。
「こら寿司屋、姫の格別の御配慮により、お前もこの場所にいられるのだぞ。それを何事か」
「丹波、まあ良い。今更言っても仕方がない。続けろ」
丹波までが責めようとするのを、薫が面倒臭そうに宥める。
丹波がまだ収まらない様な顔をしたが、源太と千明に重点的に続ける。
「防ぐ方法も伝えられておる。富士だ」
「富士?って富士山?」
源太が頓狂な声を上げた。
「そう。あれは霊山だからな。富士より結界を張る」
「富士山から結界?それはまた大きく出るねえ」
「いちいちうるさい、静かに聞かんか」
丹波に叱られても、千明が続ける。
「じゃあ、これから富士山に登るのか?」
「登るのは姫だけだ」
「お姫様だけ?」
「これから姫は富士に登られ、都を守るために結界を張る」
結界は、神事的要素も強いので、都を守れるほどの大きな結界は、志葉家の者にのみ伝えられたモヂカラ。
「そんな事も書いてあったのか?」
千明が、隣のことはに訊く。
「古文書には、富士と都から結界を張るとしか」
「そう。姫が富士山頂から、栞殿がこの屋敷から結界を張る。それで都は補完できる」
丹波が続けて言い、いつの間にか後ろに控えていた栞が軽く頭を下げる。
今年日食だ、と思ったら、なんか思い付きました。
5月の日食は、太平洋地域一帯の金環食ですが、これが、関東限定の皆既日食だったということで。