それからも、入れ替わり皆が見舞いに来てくれる。
その日は源太と千明もきた。茉子は先に来ている。
「よかった。今日は会えて。俺、昨日も来たのに、じいちゃんに騒々しいから入るなって言われて、握ってきた寿司も、まだ食えないからって、じいちゃんに食われちまった」
源太の訴えに栞が微笑む。
「流ノ介も、昼間はなかなか来られないからって、昨夜来たのに追い返されたって」
茉子も続ける。
「俺、今日来てよかった。はい、これお見舞い。寝てるだけじゃつまらないだろ?」
千明が、バッグから携帯ゲーム機を取り出し、すかさず源太に叩かれる。
「千明ばっかだなあ、右手しか動かねえのに、どうやってゲームすんだよ」
「その前に、栞ちゃんゲームしないでしょ」
茉子が呆れて、二人とも否定される。
「ちぇー」
「ありがとうございます。嬉しいです」
栞が嬉しそうに礼を言う。
「丈瑠は?」
千明が部屋を見回した。
「ずっと仕事休んでたから、ちょっと行ってくるって」
「全く丈ちゃん、栞ちゃんが目を覚ましてから一緒にいてやればいいのにな。代わりに俺がいてやろうか?」
言う源太に、千明と茉子の両方からつっこみが入り、栞も笑ってしまって、胸を押さえる。
「バカ、あんた達、栞ちゃん笑わせたら駄目でしょ。ほら、もう出て行って」
「えー、来たばっかなのに」
「顔見られたからいいでしょ」
千明と源太は茉子に無理矢理追い出される。
「全くあの二人騒々しいんだから」
茉子が布団のそばに座り直した。
栞の目から涙が流れる。
「どうしたの?痛い?」
驚く茉子に、栞が首を振る。
「皆さんが優しいから・・」
そう言う栞に、茉子が呆れたように笑う。
「お似合いかもね」
茉子に言われて栞が目で問い返す。
「この間丈瑠に、面倒臭いって言ったけど、栞ちゃんも結構面倒臭い」
「私もですか?」
「ん。三途の川まで迎えに来させる女の子なんて他にいないよ?」
意味が分からないように首を傾げる栞に、茉子が笑う。
「私に言わせれば、あんな男命を懸ける価値はないけどね」
きっぱりという茉子を、栞が驚いて見つめる。
「無口で無愛想で。世の中、他にいい男いっぱいいるんだから、だからもっと気楽に生きよ?」
栞が少し納得できないような顔をして、それでも笑って頷いた。
それから、一月過ぎても太夫の付けた傷は思ったより厄介で、栞はまだ寝たり起きたりの生活を続けていた。
ある夜、栞は起き出して、縁側から星を眺めていた。
薄雪の事を思う。
薄皮太夫の未練は全て断てたのだろうか。と。
「どうした?」
栞の部屋へやって来た丈瑠が声をかける。丈瑠はまだ付いていてくれる。
栞が振り返ってにっこり笑った。
「今宵は朔です・・・あれから、もう一月経つんですね」
しみじみと言う栞の頭を撫でると、髪が冷たくなっていて、慌てて頬に触れると、頬も冷たい。
「いつからここにいる?」
丈瑠の眉間に皺が寄った。
「さっき?」
首を傾げて答える栞に、ますます皺が深くなる。
「ようやく起きられる様になったのに、無理をするな」
強い口調に、栞が目を伏せる。
「だって、ずっと寝ているだけで心苦しい」
丈瑠が呆れた顔をする。
「だからって、無理に起きても仕方ないだろう。こんなに休める事もない。甘えていろ」
そのまま抱き上げられて、素直に首に手を回す。
栞ははっきり分かるほど、前より軽くなっていて、丈瑠が唇を噛んだ。
「また丈瑠様の相手ができるようになるには、時間が掛かりそう」
丈瑠の表情に気が付いて、栞がわざと明るく言う。丈瑠も答える様に小さく笑った。
栞を部屋まで運んで布団に寝かせた。
「身体を冷やすな。どこも痛くないか?」
栞が首を振る。
「丈瑠様がこんなに優しいのも今だけ?」
上目遣いに見る栞を、丈瑠が睨む。
「ああ、今だけだ」
栞が小さく口を尖らせて、丈瑠の膝に頭を乗せた。
「どうした?」
甘える栞の頭を丈瑠が撫でてくれる。
「ずっといてくれたから、そばにいてくれないと眠れない」
いつもなら、バカな事を言ってないで早く寝ろ。と言われそうなのに、丈瑠が栞をじっと見つめた。
「・・・祝言を、挙げるか?」
小さく聞かれて、栞が驚いて体を起こす。
「丈瑠、様?」
「そうすれば、ずっと一緒にいてやれる」
毎晩眠るまで一緒にいられるし、夢を見て泣いていたら、抱きしめてやれる。
「それに、簡単に死ねなくなるだろ」
栞の瞳が揺れた。
「私の、ため?」
それは、丈瑠自身が拒んでいた事。
「違う。俺のためだ」
どちらが先にいつ死ぬかなど、こんな世界に身を置いていなくても、誰にも分からないことなのに。そんな事にも気付かず、目の前で栞を失うかと思った。
もう、あんな思いはしたくない。
「お前が元気になったら、そうしよう」
栞が、はにかむ様に笑って、丈瑠の首に腕を巻き付けた。
その耳元に、丈瑠が何か囁いて、栞が驚いた顔になる。
「・・夢の中でも同じ言葉を聞いた」
あの時、忘れていた記憶を呼び戻し、戻る決心をした言葉。
『俺を一人にするな。愛している』と。
「夢じゃない」
栞を迎えに行った時、最後に確かにそう言った。
栞が丈瑠をじっと見つめる。
「もう一度、言って?」
もう一度の替わりは甘いキス。
甘くて、熱くて、終わらないキス。
ようやく唇が離れて、栞が吐息を吐いて丈瑠に身体を預けた。
「もう寝ろ。眠るまでいてやるから」
優しく言う丈瑠を、栞が恨めしそうに睨む。
「こんなキスされたら、眠れない」
丈瑠が小さく笑って、布団の上に横になった。
腕枕をして抱き寄せる。
「これでいいか?」
栞がそっと囁いた。
「私も、愛してる」
完
結局これかよ・・・
なんだったんだ、長々と・・・すみません。
でも、死にかけないと決意しないって、どうなのよ。丈瑠君・・・な感じ?
次回、祝言・・・のつもりだったんですけど・・・