【経営者の判断に必要な注意とは?人生の王道、稲盛和夫著より】 | 生命(いのち)を輝かせる言葉の森

【経営者の判断に必要な注意とは?人生の王道、稲盛和夫著より】

 稲盛さんがおられなくなって、改めて稲盛氏の著作を読み返す機会が増えています。

 稲盛和夫氏は、郷里の偉人である西郷隆盛の「敬天愛人」という言葉をとても大切にしておられました。西郷さんが好きで好きで、「人生の王道」という本まで上梓されているほどです。西郷南洲遺訓を各条毎に取り上げ、実際の経営に活かす上での稲盛さんの解説がついています。大事をなす上で「辛酸を味わう」ことで志が堅くなる、そういう人生の本質について理解が深まる一冊です。

その一節の中に次のような下りがあります。

 中村天風(1876-1968)という、積極思考の大切さを説いた哲学者がいます。天風師は、西郷が西南戦争で没した前年の生まれで、その生涯をかけて、人間としていかに生きるかを追究したまさに哲人でした。私は若い頃から、その著書を機会あるごとにひもといてきました。
 この天風師は、著書『研心抄』で、心のあり方に関連して、「有意注意で生きる」ことを説いています。
 有意注意とは、読んで字のごとく「意をもって意を注ぐ」こと、つまり自ら能動的に、ある対象に集中して意識を向けることです。これに対して、「無意注意」とは、たとえばどこかで音がしたときに反射的に振り向くような、他動的な意識の使い方のことをいいます。
 西郷はこの「有意注意」と同様に、迅速にかつ正しく判断するためには、どんな状況にあっても、どんな些細なことであっても、漠然と行うのではなく、研ぎ澄まされた鋭い感覚で常に真剣に、気を込めて取り組みなさい。そのように普段から集中して取り組む鍛錬をしていないと、考える習慣が身についていないから、大きな問題が起こったときに浅くて薄い考えしか出てこない、と諭すのです。
 これは、判断を下す立場にある者にとって、とても大切なことです。
 たとえば、経営者は、膨大な数の条件を次々に瞬時に判断していかなければなりません。そのためには、すさまじいほどの集中力を発揮し、さらにはその集中を長く持続することが求められます。そのような持続した集中がなければ、正しい経営判断を続け、安定した企業経営を行うことはできないのです。

(引用ここまで)
 
 有意注意という言葉を、経営者として一番使われたのは稲盛さんではないかと思います。
 実際に、JAL再生時に幹部が提出してきた数字の意味を追求されたお話など晩年になられても常人でない「有意注意」力を持っておられたことが伝えられています。
 その意味で、最も深く天風哲学を理解し、自分自身の経営者としての人生に応用された結果が稲盛氏の人生であり、その結果の正しさが、稲盛哲学を唯一無二の経営哲学としているのだと感じました。