聖人に棄人なし(佐藤一斎、言志四録)、リーダーにとっての理想 | 生命(いのち)を輝かせる言葉の森

聖人に棄人なし(佐藤一斎、言志四録)、リーダーにとっての理想

江戸後期の儒学者佐藤一斎の語録集として有名な言志四録があります。88歳で亡くなった彼の後半生40年の間に書かれた書物ですが、儒教だけにとどまらない広範な学識の現れた一冊で江戸後期から明治にかけて多くのリーダーが坐右の書としていたと言われています。
 

リーダーにとって、人を用いる時の大切な心得としておきたいのが次の一節です。

 

物、所を得る、是れを治(ち)と為し、事、宜しきに乖(そむ)く、是れを乱と為す。猶(な)お園を治むるがごときなり。樹石の位置、其の恰好(かっこう)を得(う)れば、則(すなわ)ち朽株敗瓦(きゅうしゅはいが)も、亦(また)皆趣(おもむき)を成す。故に聖人の治は、世に棄人(きじん)無し。

言志晩録129

(訳)世の中のものがすべて、あるべきところにおさまっている(適材が適所におかれている)のを、治まっているといい、事のあるべきところにおさまっていないのを乱れているという。このことはあたかも庭園を整えるのと同じである。樹木や石の配置がよろしきを得ていると、朽ちた木の株でも、かけて苔むした瓦でも、皆一種の趣(ハーモニー)をなすものである。これと同じように聖人の治世には、棄てられる人はいない。

 

ここでいう聖人は仙人のような人里を離れて霞を食しているような人ではなく、人の中にあってリーダーとしてすべてを活かすような人を指しているのはあきらかです。

 

残念なことですが、世の中のリーダーの中には、このような先哲の言葉を識らず、部下が成長しない、部下の能力が足りないと口をこぼす人も多いようです。

 

人を預かるリーダーには、部下一人ひとりの適性を考え、適材適所となるように日々わずかずつでも成長し、チームとして趣(ハーモニー)を生み出せるように力を尽くすことが大切であることを思い出させてくれる一節でした(感謝)