93歳の現役日本画家、堀文子さんの聞いた「天の声」とは? | 生命(いのち)を輝かせる言葉の森

93歳の現役日本画家、堀文子さんの聞いた「天の声」とは?

雑誌「致知」のメルマガの中で出会ったお話です。
少々お付き合いください。

「関東大震災の時に聞こえてきた天の声」 堀文子(日本画家)
        『致知』2012年1月号 特集「生涯修業」より
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そもそも私のような人間がどうしてできたかと考えると、
四歳の時に体験した関東大震災の影響が原点になったと思います。

あの時、頼りにする母が、恐怖で我を失っているのを見ました。
大人たちが裸足で庭を転げ回っているのを見て、
おかしかった記憶があるんです。

住民が町の避難所へ集められ、人々が家財道具を持ち込んで、
一つの街ができているような状態でした。

そこで私はいろんなことを観察したのを覚えています。

わがままを言っている人、サイダーの栓を口で開けていた人……、
その時、私の家に年をとった婆やがいて、
驚くことに安政の大地震を知っていた。

でもその人が総大将になって、
冷静にその大災害を乗り切る一切の準備をし、
皆の不安を和らげてくれました。


ただ、下町から火の手が回り、
私の家も危ないという知らせがきた。
家の方向に巻き上がった真っ黒な煙を見ているうちに、
私、失神状態になっていたと思います。


その時、


「あるものは滅びる」


って声が電流のように全身を貫いた。
幼い心が悟りを受けたのです。

そういうことがあって、私は子供らしい子供にならず、
物欲のない、自分の足で立って生きる姿勢が
身についたんじゃないでしょうか。


子供だから理屈は分からないが、
この世の無常の姿を、物心のついたばかりの頃に見たわけです。
「乱」を見てしまった。

その時、庭に泰山木の大木があったんですが、
カマキリが静かにこっちを見ながら
その幹を上っていくのを見ました。

絶え間なく余震が続いていました。
大きなカマキリでしたから、産卵前の雌だと思います。

人間がこんなにもうろたえている時に、
カマキリは静かに動いていました。

この時、文明に頼っている人間が
無能だということを知りました。

停電はする、水は出なくなり、汽車は止まる。
何もかも動かなくなった時、他の生物は生きて動いている。

私が生命の力を意識するようになったのも、
その時の経験が大きかったと思います。


(引用ここまで)
おそらく、目に映る出来事がすべて記憶の中に定着していくのが画家のような職業を持つ人なのかもしれません。

生命の力を、人工の力がなくなったときに発揮できるかどうか。

冷静な観察力が、生命の本当の強さを発見した瞬間がその後の人生を照らし続けたというのは凄いです。

それを絵画の上に定着させようとすることが堀さんの絵の素晴らしさなのだと思いました。

ではまた

(追伸)シリーズとして続いている顧客満足と従業員満足の話は次回以降となります。引き続きよろしくお願いします。