森鴎外の史伝『伊沢蘭軒』 を岩波書店の『鴎外選集』第7巻(1979年)のテキストで読みました。新書サイズでは、一冊で収まらず、二冊構成となったこの作品では、伊沢蘭軒が亡くなった文政12年までを扱った第194回までが194節、397ページを費やして、第7巻に収められ、蘭軒が亡くなった後、親しい人たちが、江戸時代から明治大正へと向かう社会の変化の中でどのような生き方をしたのかが第巻で、淡々と語られています。この巻の大部分が蘭軒と友人たちが作った漢詩や漢文からの引用と森鴎外による解説に当てられ、菅茶山、頼山陽 、北条霞亭らについて も、親類関係も含めて詳しく語られています。江戸時代後半の医師や考証学者にとって、漢語や漢文を大切にする文化が、どれほど大切であったのが、この作品を通じて思い知らされるような気がします。ヨーロッパやアメリカの文化だけが、受け継に値すると思うのは、現代の錯覚であるのかもしれないように思えます。この作品を作るために、森鴎外は、取り上げることの した人たちの子孫を辿ったり、墓や縁の場所を訪ねたりすることを丹念に行っています。その多くの 人 も場所も、森鴎外が亡くなってからいくばくもなく、あるいは、関東大震災によって、またあるいは 連合国軍による空襲や艦砲射撃によって失われ、大加速の時代に我が国も飲み込まれていくことになるのですが。そんなこともふと思ってしまいました。

 備後福山藩阿部家の物語と 幕臣たち、学者たちの物語が森鴎外の筆の力で 交差するのを観るのは楽しいのですが。

  とりあえず、蘭軒の遺族などのその後を扱った第8巻へ進むことにします!


 

 このシリーズの中に入っています!


 

 別のシリーズで見つけた上巻のテキストです。


 

  下巻の別のテキストです。


 

 こういうテキストもあります。