俺も…あの世界で働いていて

知らなかったわけじゃない。







イルカショーのイルカたちがどこから来て

どんな訓練を受けてきたか。








そして…お金のために

過酷な日々を送っていることを。








あの場所を離れて…

自分でも知らなかったことを

たくさん知ることができた。







その反面、なにもできない自分が

もどかしかった。









当たり前にイルカショーを見て

育つ子どもたち…







トレーナーを夢見る子どもも

たくさんいるはず…







だけど…俺はあそこで

調教されたイルカをたくさん看取ってきた。








自然界で暮らしていたら…

もっと長生きできるはずのイルカたち…







狭いプールの中で…

毎日過酷に働くイルカの寿命が

短くなって当然だった…







俺も…あそこを離れて…

今ここで暮らして

初めて生きている実感を味わったから…






  

だからこそ…あそこに残してきた

サクラのことを忘れた日なんてなかった……







 

サクラだけじゃない…







捕獲されて輸出されるイルカたちが

ごまんといる…







もちろんイルカだけの話じゃないことも

わかっている…









でも…自分一人では

なにもできないって諦めていたから…











 

「大きな海で泳ぐ智くんとサクラを

想像しちゃった…」






ショウ…






「戯言です。すみません。」



 


 



そう言って申し訳なさそうに頭を下げた…








「ショウ…ありがとな。」





「ん?」







「お前の戯言で…俺が救われたからさ。」






「智くん…」







「いつかサクラとこの海で泳ぎたいなぁ。」






「うん!」






ショウがぎゅっと俺の手を握った。



    






「その時はショウも一緒にな。」






「え?」







「あ、サクラがお前に

ヤキモチやくんだった!」







「っ、そうだよ…

サクラは智くんの彼女だからね。」






「んふふ。」









「ねぇ、智くん?」






「ん?」







「いつか日本の子どもたちに

もっと野生のイルカの素晴らしさを

見せてたげたいね!」







 

「んふふ…いつかでいいのか?」






「え?」







「船さえあればいつでも叶えられるぞ!」







「船さえって!

その船がいくらすると思って!?」








「実は…そういう話なくもないんだよなぁ。」







「っ、なに!その話!?」







「船…欲しいなぁって…」







「ちょっと!

まさか勝手に買ってないよね!?」







「…自分の金だから文句ないだろ…」







「家のローンいくらあると思ってるの!」







「…っ、出たよ…」






「智くん!?今なんて言った!?」







「腹減った~飯にしようぜ!」






「あ!誤魔化した!!」






「今日雨でシーツ洗えてねぇんだからな!」






「あ!話すり替えた!」







「お前が汚したんだからな!」






「っ、!…それはお互い様!」






「バカ!お前がバスタオル敷かないから!」







「敷いたのに智くんが

派手に飛ばすからだよ!」







「っ、!お前っ!!」






「ふははっ!」






「待てっ!ショウ!」









おしまい♡