宇和島のみかんを見つけた。
宇和島のみかんを、生まれて初めて食べた時を思い出した。

まだ幼かったころ、列車の中で、たまたま向かいに座っていた、当時高校生位のお姉さんが、みかんを一つくれた。

橙のいい色をした、子供の私が片手では掴みきれない程の、いい香りの夏みかんだった。

その時は、普通に、恥ずかしそうにお礼を言って、貰ったことを母親に伝えて、その場で食べた。

ほのかにすっばいのだが、甘さが後で口に広がった。

夏みかんって美味しい

そう私の頭には刻まれた。


それからというもの、そのお姉さんには、毎年年賀状を書いていた。
お姉さんも、きちんと整った字で返事をくれた。

私はいつしか、そのお姉さんを

宇和島のお姉ちゃん

と呼んでいた。

そう、そのお姉さんは、宇和島に住んでいた。

そして数年後、母が他界した。


ある日のこと、宇和島のお姉ちゃんがやって来た。何年ぶりだったのだろう。すっかり大人になったお姉ちゃんは、静かに母の位牌に合掌してくれた。

遅かったね。

お姉ちゃんはそう言って涙ぐんだ。

お母さん、生きてるうちに来ればよかったね。


お姉ちゃん、ありがと


言葉にならない声で私は言った。



それからも、お姉ちゃんとは、年賀状のやりとりが数年続き、いつしか便りは絶えた。

風の噂で、お姉ちゃんが嫁いだ事を聞いた。


お姉ちゃん、幸せになったかな?