うらみわびの

【この本がおもしろい!】

第49回

 

 

接客業をしているとつくづく痛感することがある。どの1日といえども同じシチュエーションの日はない、ということだ。

 

お客様は千差万別。お得意様もいるが、相手が人間である以上、昨日と全く同じ顔ぶれである、ということはない。

 

加えてこれがまた厄介なのであるが、私自身の調子も日によって異なるのだ。

考えていること、体の具合。精神的にも肉体的にも”この日のコンデション”というものが存在する。人間たるもの、結局は与えられたカードでゲームをプレイするしかないんだな、と感じる。

 

ここで私が試してみたことがある。それは調子の悪い時に体をほぐしてみることである。

調子の悪いときはどうしても思考がネガティブになってしまいがち。仕事でも「失敗するのではないか」という考えが先行し、パフォーマンスが落ちる。

そんなときは体はガチガチに緊張していることが分かる。肩がこる。体が重い。

そこであえて緊張している時こそ体をほぐしリラックスして構えてみる。

 

するとどうだろう。これまでの不安は吹き飛び、仕事のパフォーマンスが戻っていくではないか!これはなかなかの発見だった。

 

この経験を私は忘れられない。

実は緊張している時に体をやわらかく身構える、という方法はフランスの哲学者アランから教えていただいた。

その本を紹介する。

 

 

アラン著 白井健三郎 訳

集英社(1993)

『幸福論』

 

 

幸福論 (集英社文庫) [ アラン ]

 

 

アランの肩書は「哲学者」であるが、彼の思索にふれてみると哲学者の薫りがしない。

哲学のイメージは人間や社会の難題に順繰り順繰り思考を回していく深めていく、というイメージである。つまりは”思考する”ことこそ哲学である、といいたげだ。

 

しかしアランは違う。実践のなかにこそ幸せは存在する、という実践的哲学を唱えたのがアラン。

 

例えば先ほどの緊張をしたときに体をほぐす、ということは、私たちの身体と精神がひとつのつながりを成している、ということを示してくれている。

 

私たちが統御できるのは運動を伝える筋肉だけである」。つまりいくら頭で考えても精神上の問題は解決しないし、いつまでたっても私たちは幸せになれない、だから身体を動かせ、とアランは説く。

 

行動することこそ肝要である。イライラするならば、イライラをぶつけるのではなく、伸びやあくびをしなければならない。眠れないときには眠れるようになることを考えるのではなく、眠るフリをしなければならない。

 

 

 上機嫌は義務

私の記憶では教育学者の齋藤孝先生が提唱していたアイデアであったように思う。「上機嫌は義務である」。私はこの言葉を聞いて「なるほど」と驚いたものだった。

 

社交辞令」といえば聞こえは悪いが、マナーとしての笑顔であったり、人当たりの良い対応、というのは翻って自らの心を良好な状態に保ってくれる。いわば、自分で自分を持ち上げている感覚だ。

 

自分が上機嫌だと周りの人も上機嫌になるので「お前、今日はいけるぞ!」という感覚になる。幸せは伝染するのだ。

 

実はこの「上機嫌は義務である」はアランも提唱していることである。彼の言葉を借りれば「微笑は義務」である。

 

この考え方はとても実践的なのでぜひともおすすめしたい。最初は難しくても意識するだけでだいぶちがう。

 

 幸福になるのは難しい

 挫折から動く

世の中、そううまくはいかないようである。

ダイエットをしよう」と思い立つ。そこで人気のあるジムでトレーナーをつけてダイエットプログラムに入ってみたものの……

はじめは「よし、これで痩せられる!」という感覚と一種の達成感・優越感に浸っていた。選択と決断も大きな一歩である。

 

しかし現実は厳しい。慣れない運動に食事制限。これまでの自由な意思行動が制限された環境は想像以上に過酷。挫折しそうになる。

 

変化”ということを考えるとき、苦難を経験するのは誰もが避けられない道である、と考える。

苦労せずに手に入るものなどなく、手に入ったとしてもそれは価値の少ないものなのが常であろう。

 

幸福”もしかり。これは私が身をもって経験した。

うつ病から脱却しようともがいていたとき、自らの思考を変えようとしていた。

 

精神科医の先生の多くが言うことなので一定の信ぴょう性はある、と思うが、うつ病の人特有の思考、というのが存在するらしい。”思考のクセ”とよく言われるが、やわらかくいえば”ネガティブ思考”であり、被害者意識である。

 

正直に言って私はあまりこの説を受け容れられなかった。これまでの自然な自分、自分そのものを否定された気がして。身体ならまだしも心まで矯正されなければならないのか、と。

 

結果として私は思考法を変える、という選択はしなかった。

代わりに取り組んだのが朝散歩ブログを通したアウトプットなど。

 

特に意識はしなかったが、これらのことは思考に対して行動にあたる。私は行動でうつ症状を抑え込んでいるのだ。

 

 意志の壁と力

私たちが勘違いしがちなことがある。ある優れたアイデアを手に入れて、その瞬間に自らが優れた、と思い込むことである。

 

有名なダイエットプログラムに参加したとしても、うつ病に効く、という思考法を知ったとしても、その瞬間に私たちが痩せて、うつ症状が治る、なんてことはない。

私たちは動かなくてはならない。行動なくして結果はない。

 

実は結果を出すことは優れたアイデアがあれば難しいことではない。本当に難しいのは結果を出し続けることである。

 

それはなぜだろうか。行動の継続にもとめられるもの。”意志”の存在があるからだ。

 

マラソンを完走するのは想像上に過酷である。どんなに準備をしても実際に走るときの疲労を感情に入れるのが困難だからだ。

 

ゴールは決まっているが、決まっているからこそ難しいのかもしれない。疲労した体に鞭打ってゴールまで体をもっていくのは難しい。「辛いでしょ」、「やめたら楽になるよ」。そう身体が言っているように感じる。それでも走ることをやめない意志の力。それを私は求めたい。

 

どうやら”幸福”についても同様のことがいえそうである。

行動によって幸せになる、という行動哲学のアランは「幸福には”意志”を必要とする」と言う。

 

これはけっこう辛辣な言葉だと私は思う。

要は「思っただけじゃ幸せにはなれませんよ」と言っているように感じるからだ。

 

私のなかでアランは優しいおじいさん、ってキャラクターだったのですが……

アランは社会で成功を掴めない人を簡単に慰めたりはしない!

反対に「社会はなにも要求しない人にはなにひとつあたえない」と言う。すごいですね。鞭打つタイプの教師です。(ちなみにアランはフランスで哲学の教鞭をとっていました

 

 習慣に服従する

それでも悲観主義にはしらないのがアラン。

 

’習慣’は一種の偶像であって私たちがそれに服従することによって力をもつのだ

 

習慣は響きがいい。「成功者の習慣」なんていうと取り入れたくなる。

 

でもルーティンなんて守れる人は多くないだろう。私はいろいろ試して挫折した。

その度に「自分が甘い」と言い聞かせてきた。

最近やっと気づいたことがある。自分は完璧を求め過ぎていたのだ、と。

 

いわば「習慣」というワードの定義に縛られていたのだ。自らの生活の質を上げるはずが、自らの生活を「習慣」にしようと躍起になっていたのだ。なんたる滑稽。

 

ここでも力を抜いて構えないといけない。習慣を変えよう、とせずに習慣に服従する。アランの言葉の意味がやっと分かった気がした。

 

 本性を「隠す」ということ

人前で感じよくなるのは本性を「隠している」のではなく「消している」のである。

 

感じの良い人間は好まれる…… と思いきや嫌われることすらある。女子でいうところの”ぶりっ子”的なやつだ。

 

そのロジックはこうであろう。感じが良いのは本性を「隠している」から。その行為が許せないらしい。

 

しかしアランは言う。人前で上機嫌なのは自分をあえて「消している」のだと。それは自分を出さない、という消極的な姿勢ではなく、他者を不快にさせないために「消す」という積極的な行為なのだと捉えなおしている。この感覚がアラン的ですばらしい。

 

「思考する、とは意欲することなのだ」

「欲望は意志のかたちにまで発展しなければ衰えてしまう」

 

この言葉はこれからも胸に刻んでおきたい。

この言葉こそが、嫌いな戦争にまで志願して行った、生涯を幸福の追求に費やした哲学者が貫いたスタンスをあらわしてる。

 

 

 

今日も皆さんが幸せでありますように

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 今日の一曲♪

 

『夏を生きる』(2020)

 

(歌:緑黄色野菜 作詞:長屋晴子

作曲:長屋晴子)

 

 

 

 

夢を追いかける人へのエールが詰まった夏の一曲

 

「君の続きが見たい」

 

強く背中を押してくれますね。

 

 

 

最後まで読んでくださり、ありがとうございます。

 

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