うらみわびの「きょう考えたこと」第57回。

 

 

新聞の地域紙(横浜)の欄にこんな記事を見つけました。

 

「自立支援校に監禁」 男性7人が損害提訴

 

 ひきこもりからの自立支援名目で無理やり連れ去られるなどしたとして、関東在住の20~40歳代の男性7人が28日、一般社団法人「若者教育支援センター」(東京)と代表理事ら3人に、慰謝料など計3080万円の損害賠償を求める訴訟を横浜地裁に起こした。センター側は事実関係を争う方針。

 

読売新聞 朝刊 2020年10月29日

 

ひきこもりの若者を無理やり家から出させるサービス。これを請け負う団体が存在していることは私も承知していた。

 

 他の事例もある。あれはテレビの報道番組のコーナーだった。親子2人で暮らすある家庭。息子は引きこもりだった。昼には出かけることはできるが学校には通っていない。アニメが好きでアニメの録画を母親に頼んでいた。母親が録画を忘れると癇癪を起すこともあったという。母親は挙句の果てに引きこもり支援業者にサービスを依頼した。自宅にいきなり現れたのは屈強な一人の男性。見知らぬ来客に驚く息子。すると男性は無言で部屋にあったアニメのDVDの山を蹴り飛ばし踏みにじる。部屋を荒らし大きな声で息子を恫喝する。おびえる息子……。

 

 

これが引きこもり支援なのか?

 

 

 このテレビを見ていた時の衝撃は忘れられない。なによりこの引きこもり支援業者をその道のプロとして肯定的に写していたのが印象的だ。一方で、苦悩する母親の姿も脳裏に焼き付いている。確かなのは、息子と母親、二人とも悩める被害者であるということ。

 

これを見て「学校行きたくないだけだろ。なんで引きこもりが外出れるんだよ」と思う人もいると思う。

 

でも、外出れちゃうの。引きこもりでも。調子のいい日は外出れちゃうの。なんとか好きなことはできるのよ。

 

 

 暴力的に引きこもりを正す姿勢に私は強く反対する。引きこもり状態の根本的な解決にはならないからである。これは更生ではない。教化である。

 引きこもり状態とは一種の悩みの期間である、と私は捉えている。引きこもりの人たちは外の世界に大きなトラウマを抱えており、どうすればうまく外の世界とコミュニケーションをとることができるのかについて真剣に悩んでいる。極端な話24時間365日悩んでいるといってもいい。悩み過ぎて現実逃避に走ってしまっている場合もある。

 厄介なのは、周りの家族から見て本人が悩んでいるようには見えない、ということ。引きこもりにとって自宅は唯一のセーフティーゾーン。自宅内では本を読んだりゲームをしたりして過ごすことができる。悩んでいるようには思えない。そんな様子を見てしまうと「怠けているだけだろ」と思ってしまうのである。

 実際のところ、自宅内で遊べて過ごせている文にはまだよい方である。最悪の場合はベッドで一日中寝ている。何もする気力がない状態に陥ってしまうのである。

 このことからいえるのは、どうか家族の方々には暖かな、そして粘り強く見守ってほしい、ということである。これは時間と本人のなかでの立ち直りによってしか解決できない課題である。

 

 家族からの支援を考える

 

 家族にもできることがある。それは

 

 

〇 見守ること

 

〇 応援してるよ、と伝えること

 

規則正しい生活を促すこと

 

 

一つ目は見守ること。基本はこれくらいしかできない。そして色々言うよりもこのほうが本人は安心できるのである。

 二つ目は「応援してるよ」と伝えること。見守ることにこれをプラスすることで本人の回復力は高まるはずだ。

 三つめが「規則正しい生活を促すこと」。引きこもりを含めた精神状態からの回復には規則正しい生活が欠かせない。具体的には運動をすること。特に朝起きてすぐの朝散歩がおすすめだ。これは私も毎日行っている。

 かといって、いきなり運動を毎日するなど引きこもりにはハードルが高い。だって精神健常者でさえ三日坊主なんだから。

 大切なことは無理をさせないこと。本人のペースでやればいい。徐々にできるようになるから。強制的にやるのは逆効果だ。朝早くに起きれなかったら昼に歩けばいい。昼に歩けなかったら夕方や夜に歩いてもいい。家族が付き添って歩くことも効果的だと思う。周りに寄り添う人がいたほうが本人にとっても義務感が薄れるからだ。

 繰り返しになるが、本人が自分の意志で行動を起こすことが大切だ。家族はそれを促す、というイメージでサポートするとよいだろう。

 

 家族ができる選択肢としてもうひとつ紹介する。それが寄宿舎型のサービスを利用することである。世の中には引きこもり支援のための団体が存在する。なかには、引きこもり経験者どうしが身を寄せ合って共同生活する団体もある。この種の団体のメリットは主に2つ。1つは家族の負担が減ること。2つ目が規則正しい生活を強く促すことができる、という点だ。

 引きこもり本人に以上の選択肢も提示して、本人の意思で決めることできれば家族にとって心強いオプションになるだろう。

 

 

 家族だって辛い

 

 引きこもりを抱える家族の負担は計り知れない。本記事の冒頭で紹介した新聞記事の事例はなぜ起こってしまったのか。それは家族からの一定のニーズがあったからである。

 家族が精神的に追い詰められた結果、引きこもりを無理やり家から引きづり出す、引きこもりを第三者が上から押さえつけるサービスが頼られるのである。

 私はこのようなサービスに頼ってしまう家族の人たちを責めることはできない。家族もかなり悩んできたはずだ。苦しかったはずだ。

 繰り返しになるが、このような強制力の行使は引きこもりの根本的解決にはならない。私自身うつ症状と闘っており、家出の引きこもり状態を経験しているが、これだけは言いたい。

 

 

誰かの手で引きこもりを更生させるというのは思い上がりである

 

 

更生という考え自体が良くない。引きこもりはやわらかくいえば「心に悩みを抱えている状態」なのだ。悩みが解決されれば社会に復帰する可能性は十二分にある。あたかも問題が本人のなかに存在している、という考え方もよろしくない。周りの支援者は本人の社会復帰をサポートするだけでなく、本人の居場所もつくってほしい。必要なのは居場所だ。

 

 

 今回のような事例を目の当たりにしたときに心の中で悲しさがほとばしる。これは当事者だけでなく社会全体の課題である。心に深い傷を持っている者として改めて、すべての人が生きやすい社会になっていくことを願っている。

 

 

最後まで読んでくださり、ありがとうございます。

 

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