うらみわびの「この本が面白い」
第38回。
岸田文雄 著『岸田ビジョン
分断から協調へ』
講談社(2020)を読む。
勝手に評価表 |
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ストーリー |
☆☆☆☆ |
アクション |
☆☆ |
感動 |
☆☆ |
目次
総裁選を向けて筆者
魂の一作
これからの日本に求められるものとは
ここに注目!
正直、本書を読む前は岸田文雄という政治家についてはあまりよく知らなかった。自民党総裁選で度々その名が上がり、次期首相候補とも目されている、という報道もある岸田氏であるが、どういった人物であるのか。どのような政治をめざしているのか、よく分からかった。
本書はそんな政治家 岸田文雄が一から分かる本となっている。
なかでも、私が目を引いたのは岸田氏の考え方・姿勢である。彼は私が思っていた以上に物事をよく観察し、先を見ている、という印象を持った。彼は根っからの現実主義路線の政治家である。いささか否定的にみればワクワクするようなバラ色な政策を掲げる政治家ではない。ただ、彼は現実を直視し、何が今、必要なのか。そのために今、何をしなければならないのか、をよく見極めることができる政治家。頑固な政治家ではなく、柔らかな政治家である、といえる。
そんな彼を象徴する言葉が「正姿勢」である。これは彼が所属する宏池会を貫く言葉であり、岸田氏の真骨頂ともいえよう。
政治のスタンスとは低姿勢でもダメですし、高姿勢でも間違いです。自分の理念、政治哲学をもっていれば自ずと正しい姿勢である「正姿勢」になります。
岸田文雄『岸田ビジョン 分断から協調へ』
講談社(2020)
要は「正しきを受け容れ、悪しきは見逃さず」という姿勢である。最初から肯定も否定もせず、物事を注視したうえで肯定や否定をする、という姿勢である。
物事は常に変化する。現実を見極め、政策をアップデートしていく姿勢は重要だ。岸田氏にはその姿勢が備わっている、ということを本書で感じた。
本書では外務大臣や党の政調会長といった岸田氏の仕事の詳細にも触れている。ここからも政治家 岸田文雄がいかなる人物かが分かると思う。
また、彼が政治家として選挙を戦う様子やかの加藤の乱の際の本人や他の議員とのやりとりなども事細かく書かれている。これはまさに政治ドラマである。人情である。読んでいる私も心を打たれた。
そして、なんといっても岸田氏の聞く姿勢。自らの意見を押し通さず、相手の言い分をよく聞き、そして言うべきことは言うという姿勢は、特に彼が外務大臣時代の頁によく描かれている。
デジタル田園都市構想
本書で私が印象的なのは「デジタル田園都市構想」である。田園都市構想はかつてイギリスのハワードが提唱し、日本にもその流れがきていた。
それは会社や工場などが密集する大都市の郊外に自然と共存できる住環境を整える、というものである。
時代は流れる。現代において筆者が再び「田園都市」の必要性を訴えている。
その中身は時代に流れと共にアップデートされている。つまり、単なる”住”を郊外に移すのではなく、もっと広い視野で考える。農村など、人口が減少している地域に都市部の働き手の世代が移り住む、ことを想定している。近年に見られる町おこしなども同じ流れとみている。
ただ、働き世代の移住に積極的に予算を投じている地域も多い中、なかなか居住者が定着してくれない、という現実もあるようだ。
そこには”生産性”の問題があるように感じる。都市部のオフィスなどと比べると仕事に用いる道具などの環境が整っておらず、結果として仕事のパフォーマンスが下がってしまうのだ。
そこで岸田氏たちが目を付けたのがデジタル化である。
これはいうまでもないだろう。近年のコロナウイルスの影響も相まって業務のデジタル・オンライン化が進んだ。その有効性も確かなものとなってきている。
このようにして環境面・技術面が時代に追いついてくれば仕事のパフォーマンスを下げることはなくなる。つまり、仕事の場所を選ばなくなる。こうしてはじめて”移住”という選択肢がでてくる。デジタル田園都市構想の主眼はここにある。
「田園都市構想」は、都市に田園のゆとりを、田園に都市の活力をもたらし、両者の活発な交流により地域社会と世界とを結ぶ国づくりを目指すものです。地域の個性を活かし、みずみずしい国民生活を築いていくことを目標としており、大都市における過密の解消や生活環境の改善、都市もふるさとも社会と感じることのできる「住みよいまち」に変えていこうという考えで、現在強く求められている「分断から協調へ」、「集中から分散へ」、「東京一極集中是正」といった方向性とも合致しています。
岸田文雄『岸田ビジョン 分断から協調へ』
デジタル田園都市構想には”少子化対策”という意識も垣間見える。「集中から分散へ」。実際、子どもは地方の広々とした場所で育てたい、という親の要望をよく聞く。同時に働き場所は都市部の高給な職業を選ぶ傾向もみられる。ここに生じる働き世代の人口の移動とそれに伴う人口過多・過小。そのアンバランスを一挙に解決したい、という思惑もあって当然である。
新たな価値を生むデジタル化
デジタル田園都市構想は決して人口過多・過小。というネガティブな問題解決の策だけではない。そこにはメリットもある、と筆者は説く。
第一に、デジタル化の進化に伴い、農業の可能性が飛躍する、ということである。これまで人の手で行っていた収穫は無人の機会が行い、天候や作物の成長度合いなどもAIが判断。これは減少しつつある農業人口に対する対策にもなり、若手の農業者の手助けにもなる。
エネルギー分野では「どの地域にどれだけのエネルギーが必要か」が瞬時に把握でき、エネルギーを無駄なく分配できるようなるという。
情報分野においても有効性が高まる。例えば災害時の状況把握や個人の安否確認もあらかじめ収集した情報をもとにしたり、その場の状況データを集積・配信するシステムが整えば住民のスムーズな避難に役立つ。
近年では情報が錯そう・滞る事態が散見される。一部の避難所が満員となり、避難所を何カ所も回る住民もいたという。デジタル化の進展は災害時の避難にも役立つだろう。
デジタル田園都市構想については、平井卓也デジタル相のホームページに自民党委員会がまとめたスライドで詳しく載っているので参考に。(参考資料1)
岸田文雄の現実主義路線
本書を読んで岸田氏は実直な人、というイメージが強い。彼は「0から新しいものをつくる」という抜本的な案はあまり用いない。その面でインパクトに欠ける、ともいえる。
一方で、彼は「今あるもの」を上手にアップデートしよう、とする気概を感じる。
何もかも自分で行おうとはせず、専門家等から話を”聴く”という基本姿勢。富の分配、人口の分散によるコミュニティーの活性化、デジタル化による社会のアップデート。すべて「今あるもの」を活用・進化させる政策である。
そこにはおそらく、これまでの土台なくして進化なし、ともいえる岸田氏の信念があるのではないだろうか。
惜しくも昨年は総裁選は菅氏に敗れ、その存在感と今後の動向に注目の集まる岸田氏であるが、これからもぜひ地道な働きをしていただきたいものである。
参考資料
1:
【単行本】
【電子書籍版】
今日の一曲♪
『シトラス』(2020)
(歌:和氣あず未 作詞:宮嶋淳子
作曲:トミタカズキ)
こういう自然派のMV好き。
最後まで読んでくださり、ありがとうございます。
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