初夏の眩しい日差しの中、終業のチャイムが鳴り響く校舎から、続々と生徒達が帰宅していく。

そんなありふれた高校の会議室で、未知は面接を受けていた。

未知の正面に簡素な細長の会議机を挟んで、三人の担当教師が履歴書を見ながら座っていた。


「前の高校をお辞めになった理由は?」


どこで何の仕事の面接を受けても必ず聞かれることだ。
未知は覚悟していた。


「担任していた生徒を好きになったからです。」


未知は堂々と答えた。

もう自分に嘘はつかない。正直に生きる。

光と離れた後も、未知は変わっていなかった。

光がそばにいなくても、もう光と出会う前の未知ではなかった。


しかし、さすがに驚きを隠せない教師達。

覚悟はしていたが、未知もその反応に少し戸惑いの表情を見せる。


「でももう、その人とは別れましたけど……。」


そんなことは問題ではなかった。

渋い顔をしてお互いの顔を見合わせる教師達。

あからさまな拒絶反応。

未知は今まで出会ってきた人間達と同じ反応に視線を落とした。

―――ここにも受け入れてくれる人間はいなかった。



1DKのアパート。桐子の部屋だ。

「元気出しなさいよっ。何? 面接の一つや二つ落ちたくらいで。」

「でも、なんか悪くって……。居候もさせてもらってるし。」

あれ以来、二人の仲は一層深まっていた。

「あんたの子供くらいね、私が面倒みてあげるわよ?」

そう言って微笑む桐子に未知も微笑み返す。

「頑張ってるね。」

未知はテーブルに積まれた桐子の問題集を手に取りそう言った。

『これで合格!調理師試験重要問題集』

「あたしさ、どうせやるんだったら一回自分のお店持ちたいな、って思って。」

桐子は見つけた夢のために調理師免許を取ろうと勉強していた。
桐子も新しい未来に進んでいる。

「今の桐子なら、絶対大丈夫。」

そして、桐子の夢を応援する未知。

二人はお互いを心から応援しあえる本当の親友になっていた。

テキストを開き勉強に取り掛かる桐子。

「お茶入れるね。」

そう言って、立ち上がる未知。

「いいって、いいって、そんなの。無理しちゃダメって言われたんでしょ?」

「大丈夫、もう四ヶ月目に入って安定してきたから。」

未知の肩を抱え無理やり座らせる桐子。

「ホントに一人で育てる気?」

桐子は未知の隣に座り、問いかけた。

「うん。」

未知が光を想う気持ちは少しも変わっていないのに、
会いたくても我慢しているということが桐子にはわかっていた。

「彼とはもう会わないの?」

「……私、間違ってるかな?」

「未知が決めたんなら、あたしは応援するよ。」

「ありがとう。」

そう言って未知は微笑んだ。

そして未知は、光が考えた子供の名前が書かれたメモを手にする。

『光太郎×、光治△、光一、光子、翔、翔太、健太、真治、健治、久未……』

たくさんの名前。

光が未知と生まれてくる子供と一緒に過ごす未来を考えてくれていた痕跡。

未知は自分を変えてくれた光のことを一生忘れるつもりはなかった。

つらい選択だったが、光との別れを選び、一人で子供を育てる決心をしたのは、これ以上周りの大切な人達を傷つけないようにするため。

しかし、それが正しかったのか、未知にもわからないでいた。



ここまで(魔女の条件 第11話(最終話) ネタバレ詳細1・2)
書くのに2、3時間かかってます・・・それなのにやっと2分30秒の部分まで・・・疲れた。

「本当に色々と御世話になりました。」

「どうぞお大事に。」

「ありがとうございました。」

病院の廊下で看護婦達に退院の挨拶をする光。

光は看護婦達を見送った後、病室に入る前に一度足を止めた。

光が優しく見つめる先には、病室のベッドの端で、魂が抜けたようにうつむいて座っている鏡子がいた。

鏡子の体は退院できるまで回復したが、精気は未だに戻ってはいないのだった。


このとき、光の中では以前までの鏡子に対する気持ちとは何かが変わっていた。

病室に足を踏み入れる光。


「行こっか。」


光の声が届いていないのか、相変わらず鏡子は
焦点の定まらない目で床を見つめていた。

全てを失い、自ら命を絶とうとしたが、生かされてしまった。

今の鏡子はただ、身体が生きているだけの抜け殻。

光は言葉の代わりに、そっと手を差し伸べた。

それに答えるように、鏡子はゆっくりと光の手の上に自分の手をのせた。

光はまた言葉の代わりにその手を優しく握り、鏡子の手を引き病室を後にして歩き出した。




最終話 - Last Episode -

『自由の国へ』
第11回(最終回):1999.06.17

 せっかく再会し、新たな生活を始めた未知と光。しかしお互いを想う気持ちが強すぎるがゆえに、またして も離ればなれになってしまう。光は心を閉ざして しまった鏡子が心配で、つきっきりで面倒を見ることとなり、未知は再び教師の職につくべく強い意志で学校を探す。

 離れたままそれぞれの生活の中に溶け込んでゆく 二人だが、運命はその二人を残酷にも再会させてしまう。偶然の再会は光の心の傷を深め、未知との間の溝を決定的なものにしてしまうのだった。


魔女の条件(6) [VHS]
- 第10話、第11話収録 -
第10回:1999.06.10

 やっとの思いで光に再会することの出来た未知。しかし、光と抱き合う未知はゆっくりと意識を失っていく。病院で流産のおそれがあることを聞きますます深刻な表情になる光。そして未知と今すぐにでも結婚して彼女と子供を守っていくと決意する。

 そんな光に未知は彼のこれからの人生を考え、自分のやりたいことをやるようにすすめる。ふたりの間に生じた微妙なズレに戸惑う未知と光である。

 一方、鏡子は自ら経営する病院で理事長職を解かれ、何 をする気力もなく日々過ごす。そんな鏡子の前に現れた未知は鏡子に自分の腹の中に光の子供がいることを伝える。


魔女の条件(6) [VHS]
- 第10話、第11話収録 -
第9回:1999.06.03

 鏡子に成田空港まで連れて行かれ、そこで光から別れを 告げられた未知。全く思っていなかった告白に動揺を隠せない。しかし、どうすることも出来ず、 ただ光の乗る飛行機を呆然と見送るしかなかっ た。
光が目の前からいなくなり、行き場の無くなった 未知は帰宅途中に倒れる。病院で自分が妊娠していることを知り、光との間の子供であると確信している未知は迷わず子供を産むことを決意する。

 しかし、そんな未知の行動が許せなかった父・憲 一は未知に親子の縁を切ると告げる。そして、未知は誰にも行き先を告げずに家を出る。

 光を未知から取り戻すことができ安心する鏡子だが、 自ら経営する病院で理事長職を解任される。動揺する鏡子に追い打ちをかけるように未知が光の子供を妊娠していることを聞かされる。


魔女の条件(5) [VHS]
- 第8話、第9話収録 -