のらさんご飯
魔女家を出て一番に待っているのは《ひとりがすき子ちゃん》
魔女が近づくと可愛らしくうにゃんうにゃんします
ご飯の面倒を見てくれている魔女の知り合いの家があるのでお腹は空かせていないのですが
ただちょっと甘えたいだけの《ひとりがすき子ちゃん》なのです
うにゃんうにゃんの延長で倒れこむ《ひとりがすき子ちゃん》
そこからけもの道に向かって坂を登って行くと
走って来るのは白黒の《しーちゃん》と《でぃーちゃん》
この子たちも近くの家でご飯を頂いています
駆けて来るのは抱っこが目的
この暑いのに抱きしめて欲しい・・って 暑苦しいわー
坂を登り詰める辺りで待っているのは《かーりー》
息子たちの《かり》と《かろ》を里子に迎えてくれた家の方が
母親の《かーりー》も一緒に、と家に招いてくれているのに
それご厚意をキッパリ断る《かーりー》
その家の方がご飯もくださるのに、どうも魔女が持って行く安いカリカリが好みで、こうして毎日待っておるのです
《かーりー》も食事前にメチャクチャ甘えてきますので、たくさん撫でてやらねばなりません
そうして丘のてっぺん近くでは
魔女がやって来る時間を待ちきれず、既に迎えに出ている《せてぃお》がおります
《せてぃお》と一緒に丘を降りてくる魔女の姿を見て猫捨てオヤジの家の屋根から飛び降りてくる面々
みんなでお食事です
お腹が満ちると、めいめいが寛ぎます
かーら 「ねえ、まじょ」
魔女 「なあに?」
かーら 「いっかい ねたまえ わたしの なわばりに しらない にんげん きた」
魔女 「その にんげん ここに すむかも しれない」
かーら 「どして! わたしの なわばりだよ!」
魔女 「もし しらない にんげんが ここで くらすようになったら、 ここは もともと あなたの とちだから、 っていっておくよ」
かーら 「なんで かってに やってくるのさ!!」
魔女 「ごめんね、 その にんげんには あなたを たいせつにするよう いうからね」
《かーら》はちょっと不満気な顔で魔女の足元まで来て
「ぜったい いってね!」 と魔女を見上げて念押しを致しました
それから少しして・・
《おひとりさま》、《かーら》、《さき》のようすがおかしい
向こうにいる何かを警戒しているようにみえます
さき 「あれ・・ なんだろ」
かーら 「あたしたちの なわばりに いるよね・・」
おひとりさま 「まじょー あやしいやつ いる」
そう言われて見に行ってみたら
こんなのが置かれていました
たぶん以前の土地の持ち主であるおばあちゃんが置いてくれたようです
「でもさあ・・」 と、《おひとりさま》が魔女を見上げます
そうして反対側の塀の中に首を突っ込み
葉陰の冷たい水を飲み始めました
魔女 「おばあちゃんの きもちなんだから あなたたち ちゃんと 『ありがとう』 って いっておきなさい」
おひとりさま 「わかった」
かーら 「そうする」
空家の《せてぃ》はいつも寂し顔
名前を呼ぶと嬉しそうにして
その場で一旦構えてから勢いをつけ
子犬のように駆けて来ます
のらさんご飯を終えての帰り道
寒くても暑くても雨でも
必ず待っていてくれるのは《おひとりさま》
そしていつも 「おくっていく」 と言います
「暑いからダメ、とにかくじっとしてなさい!」 ときつく言って
途中の木陰で足を停めさせ、そこで見送ってもらいます
振り返ったらいけないのに
今日、そんな《おひとりさま》の写真を撮ろうとして振り返ってしまいました
魔女が振り返って顔を合わせたものだから
すぐに後追いを・・
おひとりさま 「まじょ おれ おくってくから」
魔女 「あついから やめなさい、 あるけば あしも あつくて たいへんだから」
言うことを聞かない《おひとりさま》は
熱いアスファルトやコンクリの道を歩いて、魔女家近くまで送ってくれました
《おひとりさま》抱っこしようと思っても、荷物が多すぎて抱いてやることができません
たくさんお礼を言って、たくさん撫でてから別れます
暫く歩いて振り返ると
《おひとりさま》は低い草の下に潜り、暑さのせいで口を開けておなかを冷たい地面に着けて休んでいました
《おひとりさま》、いつも優しくしてくれてありがとうございます
私は心の中で何度もお礼を言いながら家に戻りました
みんなみんな優しくて、愛らしくて、無垢で健気で
どうかこの子たちが苦労少なく暮らせますように
それだけを願いながら私は毎日ご飯を運びます