俺と瑞麗は、失踪した蘭華と、それを追い掛けて行った弦月の代わりに、村の戸籍を塗り替えた。
飽くまで、蘭華が戻るまでの、一時的なつもりだった。
何で俺が、あいつの居ないこの村に残ったのか、
あいつが居なければ、此処にいる意味などないのに。
弦月にあいつを任せて。
瑞麗の存在が、俺を此処に留めた。
弦月の蘭華を慕う想いは、兄弟とか、そんなのを超えていたのは、誰の目にも明らかだった。
慕われていた当の本人を除いて。
蘭華は、他者の感情を読む心見の力を持っている。
本来なら、誰よりも弦月の感情に、真っ先に気付いていた筈だ。
しかし、過去の出来事から、あいつはその力を封じてしまっていた。
誰かに想われることを恐れ、脅えていた。
また、誰かを想い、傷付けることを極端に怖れていた。
蘭華に惚れる奴は、それだけで不幸だ。
あいつは、容易に人の手に負える様な玉じゃない。
そこらの女には抱えきれない物を持っている。
唯の人間の相手になるような奴じゃない。
それでも、俺は、弦月が蘭華を追う手助けをした。
ただ、あいつがこの村に戻る為だけに。