二人は手を繋いで歩いた。
家では蘭華の祖父が二人の帰りを待っている。
特に何を話すでもなく、少しずつ沈みゆく夕陽を眺めながら、ゆっくりと小道を進む。
流れる景色を眺め、繋いだ手の温もりを感じながら、ダリアは最後のひとときを大事に抱き締める様に胸に刻んでいた。
すれちがう人の数がまばらに減っていき、人の通りがほとんど無くなった頃、不意に、ガクンッと蘭華の体が沈んだ。
「―――ッ!!」
「蘭…!?」
ダリアは咄嗟に繋いだ手を引き上げ、空いた方の手で蘭華の体を支えようとした。
しかし、差し出されたその手を振り払うように跳ね除けると、小さな体が飛び出した。
「蘭華!?」
ダリアは慌てて後を追おうとしたが、蘭華の向かった先にあるものを見て、足を止めた。
先刻、蘭華を取り囲んでいた子ども達が、道端に屯し何かを囲っている。
彼らの弱者を甚振る嗜虐の悦びに満ちた顔。
それを目にしただけでも、何をしているのか察しがつくというもの。
ダリアは何が蘭華をつき動かしたかを悟った。
「―――ッ!ッやめっ、やめてーっ!!」
蘭華は体当たりをかけて彼らの中に飛び込んだ。
突然の乱入者に、ドンッと突き飛ばされた子どもが驚き、尻餅を着く。
「なっ、何だよお前っ!?さっきはおとなしかったくせにっ!」
わめく子どもには目もくれず、蘭華は彼らの足元にあるモノに目をやり、息を呑んだ。
「―――ッ!」
其処には、四本の足をあらぬ方向に折られ、顔からも血を流す仔猫が横たわっている。
「ひどい…っ」
ぐったりとして、ヒクヒクと微かに髭を動かしている仔猫を前に、青灰色の目から大粒の涙が溢れ出す。
苦し気に顔を歪め、流れる涙を拭いもせずに、キッと残酷な加害者を睨み付ける。
「行ってっ!ここにいないでっ!!こんな、・・・ひどいこと、もうしないでっ!!あっちへ行ってっ!!この仔に触らないでーっ!!」
青灰色の蒼色が深みを増し、彼らを威圧する。
「なっ、なんだよっ!お前っ!!っ、その目とか、髪とか、気持ち悪いんだよっ!」
「お前なんか人間じゃねぇっ!そのねこと一緒だっ!!縁起悪ぃんだよっ!!おまえらなんか死んじまえっ!村から出てけっ!!」
尻餅を着いた子どもが、立ち上がりざまに手に掴んだ土を蘭華の顔に投げ付けた。
仔猫の前に立ちはだかり、彼らを睨み付けていた蘭華は、それをまともに食らってしまった。
「ッ!!」
咄嗟に目を瞑るも、顔中が土にまみれ、目には小石が入った。
それでも、蘭華は彼らが去るまで、涙を流しながら睨み続ける。
「お、おいっ、行こうぜ!」
仔猫を庇って立つ蘭華の後ろから、静かな怒気を燃やす若葉色の瞳が彼らを見据えている。
ゆっくりと近付いてくるダリアの姿に気付いた子どもが、他の子ども達を促して、逃げるように駆け出した。
子供たちが逃げ去るのを見送ってから、蘭華は子猫に向き直った。
まだ小さく、柔かい体は、僅かながらも浅く息をしている。
青灰色の瞳から、また新たな涙が溢れ出した。