雪降る空の薄鼠色
氷結に覆われた瑠璃石の蒼
陽光は冷たく白く輝き
風薫るは水の香のみ


かの地にて最強を表す蒼玉は
彼の人の瞳に宿り
何者にも破られぬ守護を貫く


彼らの眸は鮮血よりも赤く
唯一人、彼らの末裔たる
彼の人だけが双方の力をその身に宿す
今はもう亡き古のひと



「かあさま…?」


小さく呟かれた子どもの声に、ダリアは咄嗟に思考を閉ざした。
青灰色の瞳が不安げに見つめている。
ダリアは彼らに馳せた想いを封じ、目の前にいるい愛し子だけを想う気持ちを胸に満たした。


「お家に、帰ろうか」


袖の裾を掴んでいた小さな手を取り、優しくそっと握る。
それに応える様に、ぎゅっと、しっかり握り返された。


「うん…!」


にこっと、満面の笑みを返す子に、ダリアも愛おしさを込めて微笑み返す。


考えてはいけない。
過去に囚われてはいけない。 
感情が高まれば、想いが漏れる。
そうしたら、気付かれてしまう。


子どもには他者の思いを感じ取る不思議な力があった。


少女の様な面差しをしたこの少年の名を、蘭華と、遠い昔に、彼が名付けた。