一日の給金を受け取ると、ダリアは酒場を後にした。

外の方が酒場の中よりも明るくて、一瞬時の流れに錯覚を覚えた。


ダリアが店に出たのは昨夜遅くのこと。
一日、または半日置きにこうして酒場で歌い、生活費を得る。
そんな暮らしが、もう何年も続いていた。


ダリアは面を上げ、あらためて周囲を眺める。
山間に沈んで行く夕陽が世界を茜色に染めていく。


こんなに眩しい太陽も、土色をした大地も、此処に来て初めて出会った。


―――暖かい。


凍てつく氷の様に冷たかったダリアの体と心を、この土地がゆっくりと六年の時をかけて癒し、溶かしていった。


もうすぐ、人の暮らしを始めて七年が経つ。


ダリアは目を細めて遠方を見つめた。

人の目には捕える事の出来ない程離れた先に、何よりも愛しい存在がある。
今宵が、その者と過ごす最後となることをダリアは知っていた。


彼女は夜魔族のはぐれ者だった。
夜魔族である彼女は、人と同じに歳をとらない。
六年間の間に、共に暮らした赤子は少年へと成長した。
人として生活するにも、限界がきていた。


この六年間ダリアが愛し育くんできた子どもが、明日、七歳の誕生日を迎える。
その時までが、彼女に課せられた期日だった。