海に面した小さな村の外れに、寂れた酒屋が一件建っていた。

店内は薄暗く、正面に座る者の顔さえまともに見えない。
ただ、店内の奥にある台座だけが明るく照らされ、

そこに立つ者の姿を集う者建ちの前に晒していた。


腰まで波打つ金の髪。
春の若葉を思わす翡翠色の瞳。
淡く彩られた珊瑚色の口唇。

その唇から漏れる声と、透明な弦を爪弾く白い指。


この世の者とは思えぬ美しい容姿。

その場の誰もが彼女に魂を奪われる。


まるで天上の音楽と思わる音色が流れている間だけは、
彼女に魅せられぬ者は、誰一人としていなかった。


この世に生を受けたその時からずっと、彼女は歌姫だった。


歌姫の名は…


――― Dahlia ―――