君のそばにいられたら・・・~第4章「君のために」(12)~ | Someday, Somewhere

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Jejung side


最近、ユノに会うたびにユノが何か言いたそうにしていたのは僕も感じていた。


2人で出かけると、空を見上げては時々切なそうな溜息をする。最初は、仕事が大変なのかなと思っていたけれど、どうやらそうじゃないらしい。僕は、ユノが溜息をつくのは、大抵、マンション近くの公園や、銀杏やポプラ並み木を歩いているときだと気づいてしまった。


―ああ、そういうことか・・・。―


いつかの約束が思い出されて、急に恥ずかしくなってしまった。

それからというもの、僕も毎日庭の落葉樹の葉を確認するようになった。

葉先が黄色に色づき、やがて赤く染まっていくのを見るとそろそろ「その日」のことを考えなくてはと

思い始めた。


僕は、以前、一度家族と行ったことのある雰囲気の良かったコテージを予約した。

山間の人里離れたところにあるコテージは、そこだけまるでお伽の国のような空間だった。


少し開けた所にスイスの山小屋のようなかわいらしい外装の3棟のゲスト用コテージとレストラン兼オーナーの居住している管理棟がある。管理棟のゲスト用コテージの間には小川が流れていて、バーべキューハウスやテニスコートもある。

そのコテージの背後に聳える山の紅葉が、微妙な濃淡をつけながら描かれた絵画のように美しかったのを記憶している。


僕はユノにギリギリまで黙っていようと思ったけれど、とうとうユノに「約束」をねだられてしまった。

そして忘れていた振りをしていたら、それがちょっとユノを失望させ、もう少しでユノを不機嫌にさせるところだった。そんなユノも、拗ねたユノも、喜びで満面の笑みを浮べるユノもなんだか可愛く思えてしまった。


チャンミンとリナちゃんには出発の3日前に1泊2日でユノと紅葉を見に出かけることを話した。

チャンミンはリナちゃんの手前、批判めいたことは言わなかったけれど、食事の間中ずっと黙っていた。


出発の朝、コテージにはキッチンもあったので僕は料理を作ろうと、下ごしらえをした魚介類、野菜など材料を車に詰め込んだ。10時過ぎにユノのマンションへ迎えに行くと、ユノは既にエントランスのところで僕を待っていた。


ユノは上機嫌で、車中でもまるで子どものようにはしゃいでいる。
「これから2日間、ジエジュンと2人きりなんて・・・夢みたいだ。」ーそう言って僕の左手を取るユノ。

「危ないから、離してよ。」と言うと、ユノの手は今度僕の太腿に置かれたから、僕は運転に集中できなかった。


2時間ほど車を走らせ国立公園に辿り着いた。

その公園内に横たわる山脈の中で一際高く聳える山の頂は白い雪の冠を被り、中程から裾野に広がる赤や黄色の紅葉とコントラストが美しい。

山の中腹に道路が走っていて、車窓からも周囲のさまざまな木々の紅葉が見ることができた。

僕は道沿いのパーキングに車を止めた。


「ユノ、疲れていない?」

「ああ、大丈夫だよ。」

「じゃあ、少し車の外に出よう。ここから見る景色が絶景なんだ。」

車の外に出るとヒンヤリとした空気に思わず身ぶるいをした。


「ユノ、上着を着た方がいいよ。風邪をひくと大変だから・・・。」

「わかった。」

ユノは上着を羽織り、襟を立てた。


落葉し白く幹が光る白樺の群生が手前に見え、そしてその向こうに赤く色づく林が見え、岩肌がむき出しとなった山頂付近は雪が積もっている。


「少し寒いけれど、清清しいな。」

僕はそういうユノの背中に胸を寄せて腰に手を回した。こういうスタイルはいつもなら僕がユノにされるのだが、僕は寒さが気になった。


「どうしたんだ?」

「だってユノが風邪をひいたら嫌だもの。こうしていたら少しは暖かいだろう。」

「ありがとう」


ユノは体を回転すると、僕の腕を引っ張り正面から僕を抱き締めた。

「ユノ?」

「俺はこっちの方がいい・・・。湯たんぽ抱いているみたい。」

「駄目だよ、誰かに見られるよ。」

「大丈夫だよ。たとえ見られてもラブラブのカップルにしか見えないさ。」


ユノは全然気にしていない様子で携帯を取り出すと、僕に頬を寄せて紅葉の山をバックに写真を撮り始めた。車が2台通り過ぎていき、僕は見られているような気がして、「ユノ、恥ずかしいよ・・・。止めようよ。」と言うけれど、ユノの片手は僕の腰に置かれたままだった。


「ほら、そんな不機嫌そうな顔をしないで、笑って・・・。」

仕方ないと諦めて携帯のカメラに向かって微笑むと、次の瞬間、頬に生温かいものが当たった。

「ユノッ」-そう声と拳を上げた時にはユノは俺からパッと体を退けていた。


それから15分ほど車を走らせ、スキー場と思われる草原にシートを敷いて僕の手製の弁当を食べた。

草原には僕とユノの外には人影はなかった。


ユノは食べ終わると大の字で横になり目を閉じた。僕も片付けを終えるとユノに並んで横になった。

そうすると僕の頭の上にユノの腕が投げ出された。


「腕枕を使えよ・・・。」

「いいよ・・・恥ずかしい。」

「誰もいないだろう。」


僕がそっとユノの腕に頭を乗せて、ユノに向かって体を横向きにすると、ユノは僕の頭を自分の方へ寄せた。結果、僕はユノの腋と肩の辺りに頭を置くことになった。


サワサワと吹く風が周囲の枯れ草を揺らす中で、僕たちは互いを抱き締め合っていた。

気温が低いせいか、互いの体が接している部分から発せられる温もりが妬けに意識された。

ユノは僕の背中に両手をやり、額に唇を押し付け、僕もユノの背中に手を回した。

雲一つないどこまでも青く澄んだ空だけが僕たちを見ていた。


「幸せだな・・・。」

「僕も。」


「もう生きられないかもしれないと思った時もあったのに、ジエジュンと出会って、こうして思いが通じて・・・こんな今が信じられないよ。ジエジュンといると、些細なことでも生きているとをしみじみと実感するんだ。・・・ありがとう。」


「僕だって・・・両親が亡くなってから、チャンミンを1人前にしないと、カフェを守らないと・・・そう思ってがむしゃらに頑張ってきた。だから誰かに甘えることも、頼ることもなかったけれど、ユノといると素直にこうして守られていることの心地良さやありがたさを感じるんだよね。」

「じゃあ、ジエジュンはもっと俺に我侭でいいのに・・・、もっと頼ってくれていいのに・・・。俺の方が

ずっとずっとジェジュンに頼っている。」


「そんなこと言っていいの?僕、凄くユノを困らせるかも知れないよ。」

ユノが「調子に乗るなよ。」と言って僕に覆いかぶさった。


ユノは両手で僕の髪撫でながら、僕を目を覗き込む。その表情があまりにやさしくて僕も自然と頬が緩んでしまう。

「愛している。」―ユノの唇が降りてきて僕の唇を覆った。





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