■ちょっとだけ穏やかな日々




○2013年11月下旬




9週目のある日。

インフルエンザ予防接種を受けに、前にお世話になってた病院に出向いた。




前の先生とは半年ぶり。

外でバッタリ会ったときもその後のことをずっと気にかけてくれていたけど、「7月に採卵します」と報告してたきり、通院の機会がなくて現状報告ができてないままだった。




聞きづらそうに現状をたずねられて妊娠を報告すると

「そうですか…!!ああ、よかったよかった…!!」と、先生は予想以上に喜んでくれた。自分のことみたいに嬉しそうな顔してくれた。

横にいた、いつも検査や処置に立ち会ってくれていた懐かしい看護師さんも涙目で喜んでくれた。




先生とこは産科はないから妊婦検診はできなくて残念やけど、家から近いから、なにか緊急のときはいつでも診ますよ、できる事があればいつでも協力しますって言ってくれた。


染色体以外にも筋腫が原因で流産しないか心配すぎてやばいって話したら、筋腫は位置的に流産の直接原因にならないと思うから心配し過ぎないようにって。ちょっと安心した。



いろいろ積もる話をしながら
すごいあったかい気持ちに包まれた。



行ってよかった。
報告できてよかった。

ちょっと泣きそうなった。







その翌日の仕事帰り、お母さんに食事に誘われた。


お祝いに、そしてこれからもうこんな店でゆっくりディナー出来ることもなくなるやろうからと、フレンチのコースを予約してくれていて。




電話で報告したときは「おめでとうさん」とわりとクールやったけど、会って話したらなんか違ってて。



お母さんには不妊治療してることを伝えてたんよね。


最初は「娘が不妊症」って事実にショックかなと思って黙ってたけど。
あるとき、子供はまだいいとかいって呑気にしてると思われた方が逆に心配させるんじゃないかと思いはじめて。

ちゃんと対策して動いてるよ、もうちょっとで成果が出るから待っててって伝えたくて、体外受精に踏み切る前にすべて話した。



この人はこういうのに抵抗がないと分かってたから。


人工的でもなんでも、授かったモン勝ちやで!みたいな考えは私にそっくりで。

初孫が一時的に冷凍保存されていたとか、70近い年輩の人には衝撃的あるような気もするけど、全然平気。
むしろ先端高度生殖医療に興味津々の様子で。


今の医療はここまできたか!
すごいな、面白いなあ!

と楽しそう(笑)





帰り際に、途中まで一緒の電車の中でふと

「男の子と女の子、どっちがほしいて思ってる?」て聞いてみたとき。



「え~そうやなぁ~どっちもいいなぁ~(*´∇`*)」

と答えたお母さんの顔が、すっげーデレデレで嬉しそうな顔でさ。



こんな顔する人やっけ?


けどなんか、妊娠してよかったなぁ、ってじんわり思えた。




しかし喜ばれるほどプレッシャーやし「まだまだ何が起こるかわからんけから期待せんといてな」って50回くらい口にしてしまったけど

おなじみの私のマイナス思考は偉大な実母に「ハイハイ」とあしらわれて。


なんか逆に安心した(笑)




妊娠してからあらためて、母親という存在の偉大さを感じる。

息子には味わえない、娘だから理解し合える特権やなと。


一人目は男子希望やったけど、女の子産むのもいいなってちょっと思った。








そしてもうすぐ10週になろうという日。


いつもの病院の検診でエコーにて赤ちゃんの無事と成長を確認したあと、診察室に戻ったとき。




先生「○○さん」



私「は、はい」







先生「今日で卒業です」





その瞬間先生が、今まで見たことないような笑顔をこぼした。


口髭があるから表情が分かりづらくていつでもクールな印象の先生が、ハッキリ分かる笑顔で語りかけてくれた。




先生「順調で安心しました。ホルモン値も安定したので薬も止めて大丈夫。カバサール(高プロラクチン薬)も止めてOK。
今日で不妊治療は卒業ですよ、おめでとう。」


看護師さんが微笑みながら「妊娠おめでとうございます」と書かれた出産予定日カードを手渡してくれた。




プレッシャーが大きくなるからこの時期一番聞きたくない言葉だった「おめでとう」。
けど、この時は何故か心にすんなり入ってきた。





産院の紹介状を書いてもらい、母子手帳を取りに行くように説明を受け、この病院でやることのすべてが終了。

そしていよいよ退室することに。





どうしよう。


これで最後とか。




どうお礼を言っていいのか分からなくて、言いたいことがあるのに言葉にできない感謝の気持ちが溢れてどうしようもなくて。

言葉にしたけど足りなくて。

さみしいから、これでお別れじゃないって言いたくて。




私「また二人目を迎えにきますね」


先生「はい、待ってます」





先生と看護師さんにそれぞれ最敬礼の角度で長い長い礼をして部屋を出た。

なんか伝わった気がして、満足。







嬉しいやら寂しいやら不安やら、

訳のわからない涙が出てきて会計を済ませたあとトイレで号泣。





私の不妊治療は終わった。

ついに産院デビューする。





まだまだ不安定な時期やし、妊娠に関して心配ごとは尽きないけど

とりあえずめでたい事やと。



身内に限らず自分の妊娠をこんなに親身に喜んでくれる人たちがいると実感して、母親になる自分がマイナスに浸っていてはいけないなって気がして。


妊娠してから初めて、ちょっとだけ穏やかな気持ちになれた時期。





不妊が発覚してちょうど1年。


私は33歳になった。