時はさかのぼり、真冬が8歳の頃。季節は夏で日差しの強いよく晴れた日だった。
真冬は公園で少年がサッカーボールを蹴っているのを眺めていた。
その少年は真冬と同い年くらいで健康そうな褐色の肌をしている。
「なに見てんだよ、やりたいのか?」
少年はボールを右足でキープすると真冬に訊いた。
その質問に真冬は首を横に振って答えた。
「なんだよ……俺は別にいいけどさ、遊ぶ友達とかいないの?」
「うん、特にいない……」
それから少年は何も話すことなく黙ってサッカーボールで遊んでいた。
そんなうちに数時間が過ぎ、美雪が帰っているところを見かけると真冬はとことこと歩いていった。
なんなんだよあいつ、と少年は思い、真冬がいなくなった後もしばらくボールを蹴り続けた。
その次の日の土曜日にも真冬は少年の姿を見ていた。
「お前は昨日の……」
来てすぐに真冬は声を掛けられた。その時少年と視線が合い少しびくっと動いた。
「ところで、名前なんていうの?」
せっかくそこにいるのだからと少年は真冬に話しかけた。
「真冬……」
「真冬かお前のイメージにぴったりな名前だな、俺の名前は勝つって字一文字でマサルって読むんだぜ」
「なんかカッコイイ名前だね」
にこりと笑い真冬は答えた。
「ま、まあな」
照れかくしをしながらマサルは言った。
「それにしてもお前、学校のときは活発なのに随分キャラ違うな」
「あ、たぶんそれ姉ちゃんかな?双子だから顔そっくりなんだ」
「マジで、お前妹の方か」
「いや、僕弟……」
「お前、男なの!?」
マサルはサッカーボールを蹴る足を止め驚いた。
「そんなに驚くこと?」
「え、だってさぁ……」
そう言うとマサルは視線をそらし横を向いた。
それから少しすると足でボールを蹴った。そのボールは真冬にめがけて飛んでゆく。
「うわっ!」
真冬は両手でボールをキャッチした。
「おい、サッカーボールなんだから足で止めろよ」
マサルはにぃ、と白い歯を見せながら笑った。
マサルが次に真冬に会ったのは翌週の月曜、しかも公園ではなくマサルの通っている学校で――。
自分の教室に入るときマサルは真冬がいるのを目撃した。
「ま、真冬!」
マサルは驚いて思わず大きな声を出した。
実は真冬はマサルと同じクラスだったのだが、存在感がなさ過ぎて気づいていなかったのだ。