『present 1』




クリスマスまで、あと1週間に迫った夜

「お願い、明かりを消してくれる?」

バイトから帰るなり、アパートの部屋の中から聞こえて来た言葉に耳を疑った

「なんで?」

「いいから、いいから。真っ暗にして。」

「はぁ?」

訳がわからないまま、言われた通りキッチンの明かりを消すと

「ジャーン!」

すでに電気を消してあった和室の片隅に、点滅する青い光をまとって浮かび上がったのは

「それ…」

先週の日曜日

彼女がどうしてもと言うので、ふたりで買いに行ったクリスマスツリー

幼児の背丈ほどの高さしかない小さな物ではあったが、こうして飾りつけをしてみると

「クリスマスっぽい雰囲気になったと思わない?」

「まぁ、それなりに。」

部屋の電気をつけながら気のない返事をした俺に

「もう少し感動してくれると思ったんだけど…まぁ、いいや。お腹空いてるでしょ?ロールキャベツ作って来たの。」

彼女は少し不機嫌そうにキッチンに向かい、コンロに火をつけ食事の準備をし始めた

「サンキュー。」

「待ってて、すぐに温め直すから。」

べつに

クリスマスツリーが気に入らないわけじゃない

24日は深夜までバイトをして翌日は早朝からジムの合宿に出発するため、クリスマスはおろか明日からしばらく一緒に過ごせそうにないのにツリーなんかあったって

「あんまり意味ないだろ。」

ため息まじりにつぶやいた独り言は、食事を運んできた彼女の耳に届いたらしい

「なにか言った?」

「だからその、悪いけど年末まで予定が詰まってて…」

クリスマスは会えない、そう告げようとした俺の目の前に手作りらしいケーキが乗った皿を差し出し

「うん、わかってる。だから今日やっちゃわない?クリスマス。」

にっこり笑った彼女の胸元には、見覚えのあるブローチが光っていた




continue(次回に続きます)↓