※今回は普通に高校生編です照れ




                    『season』




「やっぱりここにいた。」


風は少し冷たいけれど、暖かい日差しが降り注ぐお昼休みの屋上で

「おはよう、朝ですよー。」

組んだ両手を枕にして、気持ち良さそうに眠っている彼に近づき声をかけると

「何がおはようだ、昼飯だろ?」

眩しそうに右腕を顔の上に翳し、ゆっくりと体を起こしてわたしを見上げた

「教室にいなかったから探したんだよ。いつからここにいたの?」

「3時限目の途中…体調悪いから保健室行くっつって抜け出した。」

「つまり、サボったってことね。」

乱れているクセのある髪を、手櫛でさりげなく直してあげながら隣に腰を下ろすと

「こんないい天気に教室で寝るのはもったいないだろ。」

彼は眠たそうに再びあくびをしながら大きく伸びをした  

「教室でもここでも、授業中に寝るのはダメだと思うけど。」

「日本史の授業なんて子守り歌にしか聞こえねぇんだよ。」

「それはそうかもしれないけど…はいっ、良かったらどうぞ。」

久しぶりに早起きして作った自信作のお弁当を手渡すと

「サンキュー。」

ようやく目が覚めたのか、嬉しそうに包みを開けてあっという間に食べてしまった

そんなにお腹が空いてたのかな?

「朝、食べてなかったの?」

「いや、そういうわけじゃないけど。」

食欲の秋って言うもんね

「秋っていいよね。食べ物が美味しいし、空が高くて風が気持ちいいし。季節の中でいちばん好きかも。」

「おまえはいつでも食欲あるだろ。」

「もう…」

情緒のない彼の言葉にムッとした時、あることに気がついた

「あっ!じゃなくて、やっぱり春がいちばん好き。」

「はあ?」

「だから、秋も好きだけど春の方がもっと好きだなぁって。」

だって、彼のお誕生日が4月なんだもん

って口に出さなくても当然、隣りで照れくさそうに苦笑いしている誰かさんにはお見通しらしく

「どっちでもいいよ。」

わたしが差し出した水筒のお茶を飲み干すと、雲ひとつない青空を見上げてフウっと小さく息を吐いた

えっと

もしかして呆れちゃってる?

「あの…」

「昼飯、美味すぎて気がついたら無くなってた。もっとゆっくり味わって食べりゃ良かった。」

えっ?

「まぁ、今日に限らずおまえが作る物はなんでも美味いんだけどな。」

えええっ?

これは

もしかして、もしかしなくても褒められてる?

「ううん、食べてもらえるだけで…」

嬉しい、って言う代わりに相変わらず空ばかり見ている横顔に軽くキスをして

「ちなみに、季節はいつが好き?」

調子に乗って、返事に困るとわかっている質問をしてみると

「冬。」

彼は眉間にしわを寄せ、ぶっきらぼうに答えて立ち上がったかと思ったら

「あっ、ねぇ待って。」

階段のある入り口の方へ、さっさと歩いて行ってしまった

「そこは、わたしの誕生日が7月なんだから『夏』って言ってくれないと。」

慌てて荷物を持って追いかけ、手の届く距離まで近づいた背中に冗談っぽく言ってみたら

「たしかに、寒いよりは暑い方がマシかもな。」

少し掠れた優しい声と、秋風に耳をくすぐられた



fin



※ただのバカップルいつものことですが泣

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