『firework 2』




学校帰りにお邪魔した彼の部屋で

「これって…わたしたちだけ3段階評価ってわけじゃないよね?」
 

テーブルの上に2人分の成績表を並べてそう聞いたわたしに

「毎回毎回、おんなじこと言ってて虚しくなんねぇのか?」

呆れたように彼が答えるのも夏休み前のお約束ではあるけれど。

「だって…」

見事なまでに2ばっかりの成績表にため息しか出てこない

「だいたい俺もおまえも卒業さえ出来ればいいんだから、そんなに気にすることないだろう。」

そりゃあ、ひとり暮らしで成績表を見せる家族がいない彼はいいけど

「わたしは一応、うちに帰ったら両親に見せるわけだし…」

出来のいい弟と比べられて恥ずかしい思いをするから憂鬱になる気持ちもちょっと分かって欲しい

「おまえの親だって絶対に期待してないから心配すんな。」

うっ、絶対…まで言わなくても

「とにかく、そろそろバイトの時間だから。」

そう言って、強い陽射しが照りつける中を家まで送ってくれた彼と別れる時


「あっ…」


今夜、弟がガールフレンドを呼んで庭で花火をやるって言ってたのを思い出して

「なんだよ?」

バイトが終わったらうちに来ない?ってうっかり誘いかけたけど

「ううん、なんでもないの。」

明日からジムの合宿だから今夜は荷作りをしなきゃいけない彼を、ただのホーム花火に誘ってはいけないと思い直して

「合宿、頑張ってね。」

慌てて口をつぐんだわたしに

「ああ…じゃあ、またな。」

ちょっと怪訝な顔をしながらも、彼は足早にバイト先へと行ってしまった


その夜、庭先で


浴衣姿の可愛い弟カップルにあてられながら、スイカと花火でちょっとした夏祭り気分を楽しんだ後

「おやすみなさい、お姉さん。」

「気をつけて帰ってね。」

「頼もしいボディガードがついてるから大丈夫です。」

「あはは、それもそうね。」

ガールフレンドを家まで送り届けるという弟と、一緒に散歩に行くというお父さんを見送ってから片付けをしていると

「花火は終わったのか?」

「えっ?」

後ろから彼の声がしてびっくりした

「どうしたの?バイトは?」

「さっき終わった。帰る途中で親父さんたちとすれ違って、まだ庭にいるって聞いたから。」
 
そっか、でも

わざわざ寄ってくれたのは嬉しいけれど、なんだか申し訳ない気分になったわたしに

「花火はもう残ってないのか?」

優しい顔で聞いてくれた彼にドキッっとしながら

「せ、線香花火なら少しあるけど。」

袋の底にちょうど2本だけ残っていた細い紐状の花火を差し出すと

「火、貸して。」

彼は持っていたスポーツバックを足元に置き、マッチで火をつけた線香花火のひとつをわたしに手渡した

「線香花火なんて久しぶりだけど、意外と綺麗だな。」

そう言いながら、チカチカと火花を散らす花火を真剣に見つめている横顔は

なんだか子供のようにあどけなく見えて

「小さい頃におば様と花火したことあるの?」

可愛いって言ったらきっと怒られちゃうかな

「夏休みにたまに、な。おふくろが夜勤じゃない時に近所の公園なんかで。」

目を細めてちょっと懐かしそうに彼が答えてくれた直後

「あっ…」

小さな火の玉がふたり同時に落ちてしまった

「残念。」

ちょうど雲が月にかかり暗闇に包まれた空間に静寂が訪れて

「あの…」

やっぱり、どうしても気になってしまったことを聞いてしまう

「夕方、わたしが誘おうとしたの気がついてたんでしょ?」

だって

うちに来ようとしていなければ、バイト先から帰るのにお父さんたちとすれ違うような道は通らないはず

「ごめんね、忙しいのに無理させちゃ…」

言いかけた謝罪の言葉はきつく抱きしめられた胸の中に吸い込まれて

「そんなんじゃねぇよ、明日からしばらく会えないから…」

会えないから?

寂しくて会いに来てくれたの?

「……」

黙ってしまった彼の顔を見上げた瞬間、雲の隙間からのぞいた月明かりが照らし出した彼の頬は

「ところで、成績表は親に見せたのか?」

話を逸らしてそっぽを向いてしまっても、赤くなっているのがはっきりと分かった

「まだ…っていうか、お父さんもお母さんもまったく興味無いみたい。」

「だと思ったよ、でも俺も…」

「えっ?」

「夏休み中に一度くらい、おふくろに会いに行くかな。」

それって

「おば様に成績表を見せるの?」

「見せるわけねぇだろ、馬鹿。」

そうつぶやいて苦笑いした彼と視線がぶつかって、静かに重ねられた唇は


さっきの線香花火ように

小さな火花をいくつも散らしながら、ゆっくりと熱を帯びていった




fin



焼き増し感満載のお話ばっかりですみませんタラー


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