『hydrangea 2』




そう言えば

前に一度だけ、彼に言われたことがあったっけ

『おまえ、変わったな』って

すごく嬉しくて『どこが?』って聞いたら、『老けた』って誤魔化されちゃったけど

「……」

わたしの手から奪ったアイスを食べながら紫陽花ばかり見つめている彼はというと

間違いなく出会ったころとは比べ物にならないくらい変わった、と思う

口下手だけど優しいところは昔から変わらないけれど、この5年間に起こった数々の出来事は彼を否応なしに大人にしてしまった

それに引き換えわたしは?

少しは成長してるのかな?

まるで心が紫陽花の濃い紫色に侵食されてしまったかような感覚に囚われて、しばらくの間ぼんやりしていると

「溶けかけのアイス食わされてる男のどこが大人なんだか」

小さなため息をついたかと思うと、そっとわたしの手を握り

「バイトがあるから、そろそろ帰るぞ」

いつものように家まで送り届けてくれた


翌日


「今日はバイトは休みだから…」

放課後はジムでの練習だけで、早い時間に帰るという彼をアパートで待っていると

「おかえりなさい…って、えっ?」

「やるよ」

半ば押し付けるように、真っ白な花束を渡されて驚いた

「これって、紫陽花?どうして…」

小さいけれどまるで真珠のように美しい花束は、明らかにプレゼント用に作られた物で

「きのうのアイスの代わりだ、ほとんど俺が食っちまったから」

へ?ということは

「これって、食用なの?」

「んなわけねぇだろ、バカ」

だよね

そっか、白いアイスの代わりに白い花束を買って来てくれたってことなのね

「そんなの、良かったのに」

元はと言えば考え事に気を取られて食べるのを忘れてたわたしが悪かったんだし

「強いて言うなら…」

「?」

紫陽花の花束ごと優しく抱きしめられた次の瞬間、耳を疑うような言葉が落とされた

「誰かさんに飽きられて浮気されるのはごめんだからな」

「!!」

「おまえは、そのままで充分だよ」

決して他の色に染まることのない白い紫陽花の花言葉はたしか


一途な愛


「ありがとう」

感謝の気持ちを込めてわたしからそっと唇を重ねると、真っ赤になってしまった彼はきっと

そんなこと知らなかった…よね?





fin

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