『study 2』



「あっ、この漫画すごく好きなの」

下校途中に立ち寄った書店で1冊の少女漫画を手に取って彼に見せると

「いたっ!」

後ろから頭を軽く叩かれてしまった

「なにしに来たか忘れたんじゃねぇだろうな?」

そうだった

「さ、参考書を探しに来ました…」

3年生になって初めての定期考査を来週に控えて

微分積分やら確率統計やら…わたしの頭では全く理解できない数学でせめて赤点を取らないように、参考書を買って勉強しようと決意したのを思い出した

「真面目に勉強する気はあるのか?」

「あ、あるもん。そっちこそ、大丈夫なの?」

変なところで気が合うわたしたちの成績は、取り替えっこしてもわからないくらいそっくりな数字が並んでいるはずなのに

「追試とか補講とか受けてる時間ないんでしょ?」

「まぁな…しかたねぇから一緒に勉強してやるよ」

なんでこんなに偉そうなんだろ?

「るっせぇ」

「だから人の心を勝手に読まないでってば、もう!」

そんなこんなで揉めながら、彼のアパートへ行き購入した参考書を彼早速開いてみたものの

「どうしよう、ちっとも参考にならないんだけど…この参考書」

教科書以上に書いてあることが分からな過ぎて絶望しかない

このままじゃ赤点どころか0点の可能性もあり得るかも

そんな悲観的なことを考えながら参考書と睨めっこしていると

「で?」

突然わたし頬に手の甲を押し当ててきた彼に、いつになく真剣な眼差しで見つめられてドキッとした

「えっ?」

「だから…なんで突然、参考書まで買って勉強する気になったのかって聞いてんだよ」

「なんでって、授業が理解出来なくてテストの問題が解けそうにないから」

他に理由なんてないよね?

なんでそんなこと聞くんだろう?

そして

なんでテーブルの上に突っ伏しちゃうの?

「昨日の休み時間」

彼は顔を伏せたまま、小さな声で話し始めた

「数学の教師がかっこいいとか何とか言ってただろう、女同士で」

へっ?

そういえば、音楽室に移動する途中の廊下でクラスメートとそんな話をしてたっけ

「聞いてたんだ?」

「たまたま、聞こえただけだ」

嘘ばっかり

「嘘じゃねぇ」

あっ!

そっか、彼のクラスはわたしのクラスとは数学の先生が違うんだった

4月に別の高校から赴任してきたその先生は、たしかに若くてかっこいいけど

「それで、わたしが急に数学を頑張りだしたって思ったの?」

そこまで単純だと思われてたなんて、ちょっとショックなんだけど

「違うのかよ?」

ようやく体を起こしてこっちを向いてくれた彼に抱きつくようにして、耳元でそっと真相を告げる

「すごくかっこいい女の先生だよ、宝塚の男役みたいに」

「!」

真っ赤になって照れている彼に、ダメ押しのひと言を囁いてみる

「ありがとう、やきもち焼いてくれて」

「悪かったな、嫉妬深くて」

「誰もそんなこと言ってないってば」

とりあえず

追試は甘んじて受けることにして

「キス、してもいい?」

わたしから切り出した甘い問いかけに

「ったく」

優しく広げられた腕の中で、恋の答え合わせが始まった




fin