※今回はプロポーズ後の秋のお話です。(いつものことですが)原作とは一切関係ない私の勝手な妄想です照れ






                 『married couple』




「ただいま」


「えっ?」


アパートの彼の部屋で夕飯のポトフを煮込んでいると、思っていたよりもずっと早い時間にバイトから帰って来たのでちょっと驚いてしまった


「遅くなるんじゃなかったの?ごめんなさい、お夕飯まだ出来てないの」


「あぁ、いいよ…まだ腹減ってないし」


コートを脱ぎながらそう言った彼の表情が少し沈んで見えたのは、気のせい…かな?


「どうしたの?どこか具合でも悪いの?」


手を洗って部屋の隅で荷物を片付け始めた背中に声をかけてみる


「べつに」


言い淀んだ彼に不安が増してしまう


もしかして


これは


世に言う『マリッジブルー』っていうやつなのでは?


男の人がなるって話はあまり聞いたことはないけれど


「なにブルーだって?」


「へっ?あっ、ううん…なんでもない」


「んなことより鍋、吹いてるんじゃないのか?」


「あっ、大変!」


慌ててポトフの入ったお鍋の火を止めて振り向くと


「なあ、今日は何の日か知ってるか?」


わたしの頭をポンと叩いた彼に珍しい質問をされた


「えっと、水曜日?」


たしか、そうだったはず


「曜日じゃなくて、その…いい夫婦の日なんだと」


あっ、そっか



今日って11月22日



「バイト先の現場監督のおっさんがさ、普段はすげえ厳しい人なんだけど…」


「う、うん」


「今日は奥さんと食事に行くから仕事を早く終わらせて帰るって張り切っちまって」


そっか、それで早く帰って来られたのね


「なんか、ちょっと意外だったから」


「でも、すごくいいご夫婦だね」


彼の言葉にほっとして、出来上がった夕食を一緒に食べた後


ふたりで後片付けをしていると、彼は話の続きをし始めた


「俺はおふくろと親父が一緒に生活してるところをほとんど見てないから…いい夫婦とか理想の夫婦ってあんまりピンと来ないって言うか」


!!


やっぱりマリッジブルー⁉︎


「だから、さっきからなんだよ。その何とかブルーって」


「えっと、その」


「まあ、しいて言えばおまえの両親なんだよな。俺にとってのいい夫婦って」


待って


確かにわたしもお父さんとお母さんのことは大好きだし尊敬してるところもあるけど


「あの…わたし、出来ればあんなに夫婦喧嘩したくはないんだけど」


「えっ?」


次の瞬間わたしと顔を見合わせて吹き出した彼は


「そうだな。でも親父さんたちは喧嘩するほど仲がいい、の典型みたいな気がするけどな」


優しい笑顔でそう言うと


食卓を拭いていた布巾を置いてわたしを抱きしめると畳の上にそっと押し倒した


「えっ?ちょっと…」


「なんだよ?」


慌てているわたしをよそにすでに彼の手は背中のエプロンのリボンを解きブラウスのボタンを外し始めていて


「今日は泊まらないよ、明日パートの仕事が朝早いから」


「知ってる」


だよね、昨日ちゃんと教えたもん


「後で送ってくから心配するな」


あっという間にほぼ下着姿にされたわたしの体に唇を這わせながら平然とそう言う彼にパニックになってしまった


「えっ、ちょっとタイム!」


「なんで?」


「なんでって…」


「やっぱ、時間かけてして欲しい?」


「ちがっ、そうじゃなくて。体、洗ってない…から」


いつもはお風呂に入ってから、だから


「どうしても、ダメ?」


うー


そんな、大好きな玩具を取り上げられた子供みたいな表情をされたら


「ずるいよ」


わたしの一言でまた笑顔になった彼は


「来年の今頃は、おまえを家に帰さなくていいんだよな」


独り言のようにそう呟いて、唇を重ねながらわたしの両手を握りしめた





fin



※マリッジブルー、じゃなくてマリッジピンクみたいなお話になってしまいました。タラー