『bubble 6』
「まっ…」
わたしがあの時、ほんとは彼にやきもちを焼いて欲しかったって本音を吐露した瞬間
彼に押し倒されて唇を重ねられていた
何度も角度を変えて繰り返される口づけの中で、彼の様子がいつもと違うことに気がついた
なんていうか
完全にリミッターが外れているといか、手加減が無いというか
容赦なくわたしの上にかけられている体重、息が出来なくて逃れようとしても執拗に絡められる熱い舌
そして極めつけは
今夜は薄手のワンピースを着て来たのだけれど、その胸元のボタンをあっという間に外してしまった彼の右手はどんどん大胆になっていき袖からわたしの両腕を抜いてしまった
かなり無防備な姿になっているに違いないと焦ったものの、彼を止める術が分からないわたしはひたすら彼の名前を呼び続けるしかなく
どれくらいの時間が経ったのだろう
まるで大きなシャボン玉の泡に包まれて世界から隔絶されているような不思議な感覚に身を委ねていると、ふとその泡が弾ける音がした
ううん
わたしの足がテーブルにぶつかり上に乗っていた空のコップが倒れた音だった
「!?」
突然彼が体を離し、驚いた顔でわたしを見つめている
しばらく茫然とした表情で部屋の中を見回していたけれど、やがて自分がしていたことに気がついたらしく
「ごめん、服を着てくれ」
わたしから目を逸らし立ち上がるとキッチンの方に消えて行き、しばらくするとコップに入ったお茶を持って来てくれた
「自分で脱がせたくせに」
いつもの彼に戻ってくれてほっとしたのと照れくさいのとで、つい軽口を叩いてしまった
「覚えてねぇんだ、ほんとに」
「えっ?」
どういうこと?
わたしから少し離れて座った彼は眉間にしわを寄せ自分の髪を乱暴に掻き上げると深いため息をついて
「誰かさんに頼まれなくても、自分が分からなくなるくらいムカついてたってこと」
それって
やきもち焼いてくれてたってことだよね?
「ありがとう」
「ありがとうじゃねぇよ、もうこんな思いをするのはごめんだ」
「うん。そうだ!良かったらケーキ食べない?さっき鈴木君にもらったから持って来たの」
「…おまえ、俺の話聞いてたのか?」
「えっ?」
その後、せっかく留め直したワンピースのボタンが再び外されそうになったのはわたしのせい?それとも
結局、ケーキを食べることが出来たのはそれから30分近くも経ってからのことだった
fin