「お帰りなさい」
夢のような一日が終わり(ほんとはもっと彼と一緒にいたかったのだけれど)玄関のドアを開けると弟が待ち構えていて
「それ、僕にでしょう?」
紙袋を見てにっこり笑った
「うん、彼からお礼なんだって」
「ありがとう」
手渡すと弟はすぐに袋の中をがさごそと探り始め
「はいっ、こっちはお姉ちゃんのだよ」
ピンクのリボンがかかっている箱をわたしの方に差し出した
「えっ?」
「で、僕が頼んでたのはこっちみたい」
弟が手にした箱にはブルーのリボンがかけてある
「さっきお兄ちゃんからテレパシーで頼まれたんだ、お姉ちゃんにプレゼント渡してくれって。ほらっ、開けてみなよ」
ドキドキしながら包みを開けると
「これっ、いつのまに…」
中にはさっきのお店でわたしが可愛いと言った猫のぬいぐるみが入っていた
もしかして
わたしが犬のぬいぐるみを選んでいる間にこれも買っておいてくれたの?
「すぐに帰るって、お母さんに言っておいて」
居ても立ってもいられずに猫のぬいぐるみを抱えて家を飛び出してしまった
でも
彼の歩くスピードはとても速くてなかなか追い付けず、ようやく後ろ姿を見つけた時には疲れて足がもつれてしまいそうだった
「ま、待って」
息が上がって小さな声しか出せなかったけれど彼はすぐに気がついて振り向いてくれた
「おいっ、いったいどうした?」
駆け寄ってくれた彼の胸に飛び込むと涙が止まらなくなって、上手く気持ちを伝えられない
「これ…」
「ちょっと待て、ただのぬいぐるみだろ。そんなことくらいでいちいち追いかけてくるなよ」
だって
「お礼が言いたかったの」
「それ、例の子猫にそっくりだったんだ」
「捨てられてた子猫?」
「ああ、それでつい…な。ごめん、もっとちゃんとしたプレゼントを用意してやれなくて」
ちゃんとしたプレゼントって
これ以上何かしてもらったら、ほんとにわたし
「今、気がついたんが…大事なこと言い忘れてたな」
「大事なこと?」
「誕生日、おめでとう」
「!」
抱きしめられて耳元で囁かれた優しい声を、わたしはきっと一生忘れない
fin