『confession』
ただでさえ男子の数が少ない学校で彼が女子生徒の注目を集めるのはわたしと彼が2年遅れの高校生活を始めてから当たり前の光景となっていたのだけれど
ボクシングで大活躍し、ますます強さとかっこよさに磨きがかかった彼に真剣に恋する女の子も後を絶たず
彼に告白してフラれたという同級生や下級生の噂を耳にした事も1度や2度ではない
もちろん彼のわたしに対する思いは特別だと信じているから、いちいち動揺することはないのだけれど
「委員会で遅くなっちゃった、部活はもう終わってるかなぁ」
放課後の校庭を部室目指して走っていると夕闇の中、部室の前でおそらくわたしを待ってくれているのであろう彼の姿がぼんやりと見えた
そして、彼にゆっくりと近づいて行く女子生徒の姿も
わたしの足はとっさに急ブレーキをかけ、木の陰に回り込む
遠目だったけれど、雰囲気で分かる
きっと、あの子は彼に告白している
噂では聞いていたけれど実際に現場を目撃するのは始めてで、一気に心臓の鼓動が激しくなる
なぜなら、その告白の結末をわたしは知っているから
好きな人に拒絶される辛さは(それは彼の本心ではなかったのだけれど)わたしも何度も経験した
あの子があまり傷つかないように断って欲しい、などという偽善者のような思いを抱き自分への嫌悪感でさらに胸が痛くなる
案の定、わたしのすぐ横をそれと気付かずに走り去って行った彼女は泣いているような表情に見えてその場から動けなくなった
「こんなところでかくれんぼしてんじゃねぇよ。」
振り向くと眉間にシワを寄せた彼が立っていた
「遅かったじゃねぇか、さっさと帰るぞ」
そう言うと歩き出した彼の背中を追って学校を後にする
ふたりとも一言も話さないままの帰り道はいっそう気分を落ち込ませ、不安な気持ちが膨らんでいく
絶対に気がついてるよね?わたしがコソコソ隠れて彼が告白されるのを見てたこと
嫌な子だって思ってるよね?
「…腕、大丈夫か?」
わたしの家まで着いたところで、突然彼が切り出した
「腕って?」
この展開での予想しなかった言葉に驚いてると
「休み時間に保健室に行っただろう」
「あっ、うん。家庭科の調理実習で油が跳ねちゃって少し火傷したの。でも全然たいしたことない…って、どうして知ってるの?」
彼はばつが悪そうに鞄を持っていない左手で頭をかきながら
「つい気になっちまうんだよ、お前がどこで何をしてるか。監視してるみたいで言いたくなかったけど」
「え!?」
きっと今のわたしの気持ちを分かった上でくれた優しい言葉に思わず両手で顔を覆い涙ぐんでしまう
すっかり日が落ち暗闇となった門の前でそっと抱きしめられたのがわかった
「とりあえず腕を出せ、治してやるから」
「うん、ありがとう」
彼はわたしの涙をそっと指で拭って「どういたしまして」と言って笑った
fin