『プロローグ 4』
「頼むから、もう黙ってくれ」
「えーっ!だって…」
「だってじゃねぇ、いいかげんにしないと帰るぞ」
「だって、かっこいいんだもん」
「やめろっつってんだろ、バカ」
27日の夕方
たくさんの人でにぎわう公園の入り口で彼を待っていると
「悪い、遅くなって」
待ち合わせの時間をだいぶ過ぎたころ、後ろから声をかけられ
「あっ、えっ、えぇぇぇ!?」
振り向いた瞬間、息が止まるくらい驚いたのはわたしの方だった
濃紺の浴衣に身を包み、伏し目がちに長い指先で髪を掻き上げている彼の姿は
「なんで、そんなにかっこいいの?」
そう叫ばずにはいられないくらい素敵だった
でも、待って
合宿から戻ったばかりで浴衣に着替える時間なんてなかっただろうし、そもそも
「浴衣なんて持ってたの?」
足元の下駄と綺麗に結ばれた帯が焦茶で統一されている完璧なコーディネートに見惚れながら質問ばかりするわたしに
「合宿の帰りに駅前の店で買ったんだよ。女の店員が何人も寄ってきて着せ替え人形にされたけど、かなり安くしてくれて…って言うか」
今度は彼が不思議そうに首を傾げた
「おまえさ、俺に浴衣で夏祭りに来て欲しかったんじゃないのか?」
まさか
「わたしが、浴衣を着るって言ったから…」
彼にも浴衣で来て欲しい、って催促してると思わせちゃったの?
「違ったのか?」
どうしよう
そんなつもりは1ミリもなかったんだけど
「ち、違わない!そうなの、一緒に浴衣で夏祭りに行けたらなぁって思ってたの」
「…なら、いいけど」
聞き流されたっておかしくなかったわたしの言葉に頭を悩ませてくれた彼の優しさは
「ありがとう、すっごく似合ってる」
なにより嬉しい誕生日プレゼントに違いなかった
※次回に続きます(ちょっと時間かかるかもだけど続きます)