こんにちは。この度「まひる野全国大会潜入レポ」を書くことになりました、佐巻理奈子と申します。
簡単に自己紹介しますと、2016年入会で所属は作品Ⅲ、北海道札幌市在住のちょっぴり人見知りです。普段はまひる野北海道支部の若手が集まった勉強会「ヘペレの会」で月に一度勉強会を行いながら、
まひる野ブログで山川藍さんが連載している「まえあし!絵日記帖」のピヨ太くんに感情移入する日々を送っています。よろしくお願いします!
さて、数ある短歌結社の中には年に一度「全国大会」なるビッグイベントを開催している結社があります。大会と聞いて皆さんは何を想像しますか?私は運動会でした。
でも短歌結社の大会とはそうではなく、日本中の結社会員が集い短歌について学び、会員同士の交流を行うことを目的とした一大イベントだそうです。
先輩の北山あさひさん(当ブログでは「まひる野歌人ノート」を担当されています)は、まひる野全国大会を「まひる野ロックフェス」と言います。まひる野ロックフェス…!?一体どんな様子なのでしょう?
私は胸をドキドキさせながら飛行機に乗り、ロックフェス開催地・東京へ向かいました。
全国大会はホテルで行われます。
遠方から来る人が多いこと、また2日間に渡り開催されることから、会員の多くはホテルに宿泊して参加することになります。2018年まひる野全国大会はルポール麹町で行われました。
こちらは田舎者ゆえTシャツ・ズボンで大会1日目を過ごしてしまった私です。
参加されている皆さんはもう少しフォーマル寄りの恰好をしていました。男性は襟のついたシャツ、
女性は皺の目立たない素材のワンピースを着ている方が多かった印象です。
会場の前では、事務局の方たちが受付をしています。名前を言って資料とルームカードを貰い、いざ会場へ!
会場は自由席。
ヘペレの会として共に活動しているマチエールの広澤治子さんのお隣に着席しました。
人見知りの私、ほっと一息です。
会場の後方には歌集・同人誌の即売コーナーがあります。
この日はヘペレの会で初めて作りあげた汗と涙の結晶「ヘペレの会活動報告書」も置かせてもらいました。
物販の様子。大会当日にルポール麹町に滑り込み納品された「ヘペレの会活動報告書vol.1」(左端)
【総会はじまり】
マチエールの後藤由紀恵さん、富田睦子さんの司会進行により、総会が始まりました。
まずは大会委員代表の柳宣宏さんのご挨拶です。
次いで物故者哀悼・黙祷。今年亡くなった会員へ黙祷を捧げました。
その後、篠弘さんよりご挨拶があり、会務報告、会計報告、会計監査報告と進みます。
ここで”緊張しい”にとって最初の難関、参加者紹介のコーナーが始まりました。
既に配られている本日の参加者リストの名前を、新藤雅章さんと庄野史子さんが読み上げます。
リストは都道府県順に作られており、恐ろしいことに私の名前が先頭になっているではありませんか。「北海道からお越しの佐巻理奈子さん」私は「はい!」と手を挙げて返事をし、立ち上がりました。
「手は上げなくて結構ですよ!」
・・・。ひとり決まりの悪さの波に飲み込まれる私を置いて、その後も参加者の名前が呼ばれます。
「あ、いつもまひる野で読んでいるあの人だ!」「この間歌集を買ったあの…!」
普段誌面のみでお名前を拝見している先輩たちご本人が次々と立ち上がります。
…この感じ…どこかで…あ…ロックフェス…?
【まひる野賞授賞式】
まひる野では、まひる野賞として5月に50首の連作を会員より募集し、この8月の全国大会で授賞式が行われます。今年の受賞は森暁香さんと伊藤いずみさんです。(今年のまひる野賞については、10月5日更新予定の「まひる野歌人ノート・まひる野賞を読む!スペシャル(北山あさひ)」を読んでくださいね!)
授賞式の後は、広坂早苗さんによる審査委員講評がありました。心して聞きます。
【代表講演・パネルディスカッション】
篠弘さんによる代表講演です。テーマは「いかに災害を読むか」。
結城哀草果の歌集『すだま』よりお話をされていました。
2018年もあと4か月ですが、今年は災害を身近に感じる年でしたね…。
代表講演が終わると次はパネルディスカッションです。先程の篠さんによる「講演」はイメージできますが、「パネルディスカッション」…?あまり聞きなれない言葉ですよね。
パネルディスカッションとは、数名の登壇者が各自見解を述べ、それについて議論を行うことです。
まひる野全国大会2018の場合、年間テーマ(今年は「身体感覚の可能性」)について、4人のパネリストが各自事前に選んできた短歌とテーマに沿った評を述べ、それについて意見し合う形で行われました。
年間テーマは1年を通して考えるもの。まひる野誌には毎月会員が書いた年間テーマについての評論が掲載され、大会でもこのように取り扱われます。1年間ひとつのテーマを意識していると、次第に見えてくるものってあるんです。年間テーマを積み重ねて、いろんな角度から歌と向き合えるようになるのかしら…ねぇピヨ太くん…。
篠弘さんによる代表講演
パネルディスカッションの様子。
左から、柳宣宏、岡本勝、広坂早苗、後藤由紀恵(敬称略)
【懇親会】
総会が終わると次は懇親会。一度荷物を部屋に置いて会場へと向かいます。
会場に入る前にくじをひきます。このくじで座席が決まるんですね。私は大当たり!まひる野賞受賞者のお2人と同じ、会場前方のテーブルに着くことになりました。お隣はマチエールの田村ふみ乃さん。
人見知りの私ですが、田村さんが2016年に中城ふみ子賞(北海道帯広市の短歌賞です)を受賞された時に北海道に来たお話をしてもらい、楽しいひとときを過ごすことが出来ました。
懇親会ではまひる野賞受賞者のスピーチがありました。
森さんは「お正月明けから作品作りに取り組んだ」「ウォーキングをしながら歌を考え、推敲する」と仰っていました。先程書いた通り、賞の応募は5月。それをお正月明けから…。細かなところまで整った日常詠の一連は、森さんの丁寧な暮しから生まれたものなのだと感じます。
伊藤さんは「何度も短歌をやめてしまったが、戻ってきて続けることが出来たのはまひる野があったから」とお話していました。ダイレクトな表現、比喩を使った力強い歌が印象的な伊藤さんの一連ですが、対象から目を逸らさない覚悟の根底にある背景が伺えました。
懇親会も後半になると皆さん立ち上がって好きに過ごすように。
私も広澤さんに連れられて先輩たちにご挨拶をして、会場を歩き回ります。
懇親会の終わりに、短歌結社まひる野門外不出の「ふるさと」なる極秘儀式を参加者全員で行い、
無事1日目は終了しました。
【大会2日目】
ひとり部屋(ここは人見知りにとって重要ポイントですね)で泥のように眠り、朝食ブッフェでお腹を満たしたら2日目のはじまりです!
今日は大会のメインイベント、総勢105名での歌会が行われます。歌会は無記名制。参加者は事前に郵送された詠草一覧から5首選んで投票し、既に集計が行われた状態でのスタートです。
まひる野全国大会2018の歌会は、詠草番号1~53の人たちでA会場、詠草番号54~105の人たちでB会場に集まり、高得点の歌を除いた詠草の評を行います。その後全員で1つの会場に集まり、高得点の歌のみを取り上げ総合歌会を行います。
私は56番だったのでB会場へ向かいました。
【歌会 B会場】
B会場の歌会ではまず、講評者として大下一真さん、批評者として今井恵子さんが登壇していました。
講評者と批評者は他にも何名かおり、会の途中で入れ替わりがあります。
講評者と批評者…とありますが、役割として大きな違いはないように感じました。講評者が歌に対して評を述べ、次に批評者が補足したり意見をする印象でしょうか…。これにより議論が生じることもあるので、より深く取り上げている歌についての評が行われます。
基本的に参加者は登壇者の評を聴講しますが、会も終盤にさしかかるとオーディエンスも白熱。
「わたしはこう思うけど!」と意見が飛び出す場面もありました。
約50首、怒涛の評を4時間。途中昼休憩も挟みましたが、ふだん札幌でグータラしている私にとってはものすごい熱量でした。
病む日々を思い返せばほつほつとホットケーキの小さき泡よ/佐巻理奈子
私の詠草です。この1首について
・時系が変じゃないか。「病みし」日では?
・眼前の光景で思い返しているのか、それとも比喩なのか
・感情が湧き上がり固められていく様子は窺えるが、何を想起させたいのかいまいち読めない
・作り方が現代短歌の一つの定型パターン。一定の修辞であると理解しているか。
といった評がされました。
これを×50首。すごいなぁ…と思う反面、自分がいかに勉強していないかを痛感します。
「札幌に帰ったら定山渓に籠って修行しよう」と思いながら食べたお弁当。
【総合歌会】
昼休憩のあともまたひたすら評を聞き、B会場の歌会が終わりました。
若干時間がおしてしまったので急いで総合歌会会場へと移動します。
ここで急展開!のん気に席へ着こうとする私に、マチエールの富田睦子さんが突然マイクを渡してきました。
「佐巻さん、マイク係をお願いします」
総合歌会では、司会が参加者をあて、あてられた人が評をするというドキドキの参加者一体型で行われます。マイク係とは司会者にあてられた参加者の元へマイクを持っていく係。私にそんな大役が務まるのか…。
「あてられた方の元へは、こちらの若手がマイクを持って走ってかけつけます」
富田さんの司会にさらなるプレッシャーを(勝手に)感じます。
これは私の良くないところのなのですが、緊張状態でひとつのことを行うとそれ以外のことに目がいかなくなってしまいます。私は鬼のマイク運びマシーンと化し、五感のすべては「あてられた人にいち早くマイクを持っていくこと」のために集中。評、まるで耳に入っていません。ロックフェスの裏方としてフロアを沸かせるアーティストからアーティストへと走るのみです。
開始からどれほどの時が経ち、何人の元へマイクを運んだでしょうか…気づけば歌会のレジュメは手元にありません。でもいいんだ、マイク一本あれば良い…そんな境地に至った私を、突如雷が貫きます。「…なぜこの歌を採らなかったのか、既にマイクをお持ちの佐巻理奈子さん!お願いします」
この後自分が何をしゃべったのか。
思いだそうとすると、春にヘペレの会で行った知床の「オシンコシンの滝」が脳裡に浮かびます。
雪解けで勢いを増していた滝。近づくと顔に水しぶきがかかって……あの滝壺に飛び込みたい。
そして気が済むまで滝に打たれたい…。
私の心情と口から出た評、会場の空気が伝わりましたでしょうか?
その後は抜け殻のままマイク運びマシーンとしての職務を全うし、無事総合歌会は終了しました。
このような次第でしたので、残念ながらこの潜入レポートでは総合歌会の様子をまともにお伝えすることが出来ず、情けないことです。
でも大丈夫!まひる野では、毎年11月の結社誌で大会の内容が掲載されます。
総合歌会の評まとめの担当はマチエールの立花開さん。安心です!
今年の最高得点歌は奈良英子さん。篠弘特選は今井恵子さんでした。
表彰のお写真を撮りたかったのですが、ばらばらになった魂を集めるのに必至でかなわなかったことが悔やまれます。
最後に事務局長の小嶋喜久代さんより閉会のご挨拶があり、大会は終了。
まっしろに燃え尽きた2日間でした。
家に帰って多少自分を取り戻したころ、得表評を見てみました。各詠草の得点数と作者、また誰が自分の歌に投票してくれたのかが分かります。私の得票は6評。その中に、作品Ⅲの池田郁里さんのお名前を見つけました。
ブラウスの裾はためかせ突風に子を抱きしめてぶつかっていく/池田郁里
突風の吹く日。向かい風は強いけどとにかく前へ進むしかない。
はためくブラウスの裾もそのままに、小さなわが子を胸に守りながら、足を踏み出し自ら風にぶつかっていく。自分のこともままならないような目まぐるしさ、息苦しさの中にいながら、強い意志を持って進む。
実はわたしも池田さんの詠草に票を入れていたのです。愛情だけではない、個人としての「覚悟」を感じる好きな歌でした。
大会では池田さんとお話することができました。
年齢も入会日も近く、毎月まひる野誌で作品を読みながらどんな方なのだろうと考えていたので、声をかけて貰ってとても嬉しかったです。
まひる野に入会したのは、簡単に言えば短歌を作る生身の仲間が欲しかったから。たまに顔を出していた超結社の歌会は面白かったけれど、もっと安心して自分をさらけ出して、生活を映した短歌を作って誰かに見て欲しかったし、その誰かが作った短歌と生活を実感したかった。1日目の懇親会で会場を見渡した時、目に入る人全てがその「誰か」なのだと気づき、はるばる北海道から飛行機に乗ってやってきて本当に良かったと思ったのでした。
来年のまひる野全国大会は青森県八戸で開催予定。
今度は苦手な飛行機ではなく、フェリーで参加したいと思います
(佐巻理奈子)
次週予告
10/5 (金) 12:00更新 まひる野歌人ノート「まひる野賞を読む!スペシャル」(北山あさひ)
お楽しみに!